OPINION3 意図的に学びを仕掛ける時代へ 成長サイクルを生み出す学習環境のつくり方 山内祐平氏 東京大学大学院 情報学環 学環長/学際情報学府 学府長
新人・若手のエンゲージメントは本人たちの成長なくして生まれない。
そして、成長の第一歩となるのは認知的徒弟制における最初のフェーズ
「思考のモデリング」であり、自らの境界を踏み越えていく力「ジョブ・クラフティング」だ。
コロナ禍により学びの場が大きく変化したいま、ビジネスパーソンとしての助走とスタートを支え、成長のサイクルへと誘うには。学習環境デザインの第一人者である東京大学の山内祐平氏に聞いた。
[取材・文]=西川敦子 [写真]=東京大学提供
第一歩は思考のモデリング
人は自分の力を発揮し、役割を果たして初めてコミュニティーにおける自分の存在意義や周囲との結びつきを感じられる。したがって、「組織に対するエンゲージメント=貢献感、適合感、仲間意識」を向上させるには、まずは、自らの役割を果たせるよう、業務遂行力や調整力、視野の拡大といった様々な能力を伸ばす必要があるといえる。
では、新人・若手の能力を芽吹かせ、開花させる方法とは何か。
東京大学大学院情報学環の山内祐平学環長は、最初の第一歩として「思考のモデリング」を、第二歩として「ジョブ・クラフティング」を挙げる。
第一歩である思考のモデリングを説明する前に、そのベースとなる学習プロセス、「認知的徒弟制」について整理しておこう。
認知的徒弟制とは、親方(熟達者)と弟子(学習者)における職業技術訓練のプロセスを理論化した教育法だ。1980年代に米国の認知学者ジョン・S・ブラウンやアラン・コリンズが提唱した。学習する側ではなく、教える側の視点に立ってモデル化されている点が特徴である。
具体的には以下、4つのプロセスで成り立つ。
・モデリング(熟達者が仕事をしている様子を新人に示し、仕事の概念モデルを形成させる)
・コーチング(新人の仕事中に熟達者がフィードバックを与える)
・スキャフォルディング(新人がうまく仕事ができていない部分を熟達者が助けるなどしてサポートする)
・フェーディング(新人が一人で仕事ができるようになったら徐々に手助けを減らす)
たとえば寿司店では、新人が入ってきたらまずは親方が自分で寿司を握ってみせ、次に手取り足取り教えながら本人に寿司を握らせる。ある程度できるようになったら一人で握らせ、うまくいかないところがあればヒントを出したりして理由を考えさせる。こうして上手に握れるようになれば、親方は引き、新人は一人前の寿司職人として板場に立つ。
この場合、モデリングは最初の段階である「親方が握ってみせる」に該当するが、ビジネスパーソンのモデリングとは「行動のモデリング」ではなく、「思考のモデリング」であるべきだ。「やってみせる」だけではなく、その理由を説明しなければならないのである。
「行動をまね、やり方だけを身につけたところで、時代や環境が変われば役に立たなくなってしまう。しかし『なぜこんなことをしているのか』という裏の意図には、仕事上の方略、思考のコツといった普遍的な原理原則が含まれる場合があります。その後、様々な仕事のスキルを身につける際も、原理原則を学んでいればなぜそうすべきなのかわかるでしょう。思考+行動をセットで理解することが肝要なのです」と山内氏。