第13回 リモートチームから学ぶチームの本質 倉貫義人氏|中原 淳氏 立教大学 経営学部 教授
多くの企業でリモートワークが広がるなか、チームワークの難しさが課題となっています。
『リモートチームでうまくいく』(日本実業出版社)の著者でもある倉貫義人さんにリモートワークでGood Team をつくる方法について聞きました。
ソフトウェア開発事業を手掛けるソニックガーデンでは、約5年前から「オフィスなし、全社員リモートワーク」を実践しています。
リモートワークを導入したのは10年前。当初は一部のメンバー向けだったので、リモートワークをするメンバーと、オフィスにいるメンバーとのチームワークが課題でした。ビデオ会議システムやチャットなど様々なコミュニケーション方法を試しながら試行錯誤を重ね、2016年からはオフィスを廃し、完全リモートに。現在は約45名の社員の半数近くが地方在住者ですが、自社で開発したバーチャルオフィスシステムを使い、全員がオフィスで働いているのと変わらないチームワークを実現しています。
リモートチームで成果を上げていくためには何が必要なのでしょうか。代表取締役社長の倉貫義人さんにお話をうかがいました。
部長も課長もいないネットワーク型組織
中原:
全社員リモート勤務の会社ということですが、どのようなお仕事をなさっているのですか?
倉貫:
2つの事業分野があります。1つはお客様のシステム開発を行う受託開発です。ただし、発注されたものをその都度期限内に納品するのではなく、「納品のない受託開発」。税理士のように、顧問エンジニアとして月額、定額で長期間おつき合いしていくスタイルでビジネス展開しています。
もう1つは自社開発のソフトウェアのサービス販売で、主力商品はリモートワーク関連の仮想オフィスシステムや勤怠管理システムです。
変わっているのは1人で複数の部署、チームに所属している点。クライアントのA社のメイン担当をしながらB社の仕事も行い、社内のセキュリティー委員会と情報システム担当も兼務する、といった具合です。
中原:
それぞれの部署に管理職はいるのですか?
倉貫:
部長も課長もいません。ヒエラルキーはなく、ネットワーク型の組織です。上司が管理したり、指示命令したりして仕事を進めるのではなく、それぞれ自分が担当する複数の業務が円滑に進むよう、自分でリソース配分し、セルフマネジメントするというやり方をとっています。
中原:
各自が自立したスペシャリストだということですよね。
倉貫:
そうですね。ただ、1人で仕事を完結させる個人事業主の集団ではありません。お互い自分の得意なところを使って人を助けたり、苦手なところは人に任せたりして仕事を回しています。会社に依存したいとか、守られたいというのではなく、それぞれの強み、個性を活かしたい、という思いで集まっています。逆に何かしら強みがないと助けられっぱなしになってしまうので、居心地が悪いかもしれません。
会議と作業の間にあるもの
中原:
普通の職場に比べて、リモートの職場はどこが違いますか?
倉貫:
5年前、オフィスをなくしたとき、失うものはあるかなと考えてみました。
目的とアジェンダの決まった会議はテレビ会議の方が向いていると感じましたし、作業も在宅で大丈夫。ただ、会議や作業の合間の雑談や相談など、ちょっとしたコミュニケーションをする場所がなくなったのが困りました。オフィスというのは、“会議未満・個人作業以上”のコミュニケーションツールだったんだ、という発見がありました。
中原:
面白いですね。確かにオンラインだけだと、目的のあるコミュニケーションばかりになってしまうと感じていました。「ちょっといいですか」という声かけがしづらいし、あと、人の気配もない。
倉貫:
そうなのです。チャットを導入すれば、多少コミュニケーションはとれますが、人がいる感じはありません。
オフィスにいると、他の人の会話がなんとなく聞こえてきて「今、あの2人が一緒に仕事しているんだな」とか「あの人、怒ると怖いな」といったことがそれとなくわかります。また「こんなときに皆笑うんだな」といった会社のカルチャーやノリみたいなものは、目的も宛先もないコミュニケーションのなかから生じるものです。