OPINION2 多様な個人が創造性を発揮する時代 個人の強みを活かすことで、ワーク・エンゲージメントは高まる 石山恒貴氏 法政大学大学院 政策創造研究科 教授
コロナ禍入社組に限らず従業員のエンゲージメントの低さが指摘される日本企業。
エンゲージメントを高めるために、企業は何を変えていかなければならないのか。
雇用政策や人的資源管理を専門とする法政大学の石山恒貴教授に話を聞いた。
[取材・文]=谷口梨花 [写真]=石山恒貴氏提供
「エンゲージメント」の混同が問題
「そもそも、『テレワークの働き方になり、上司や先輩の指導を直接受けられないから新入社員が心配だ』という考え方に疑問を持っています。対面で、上司や先輩が逐一隣にいないと育成ができないという考え方は、あまりに古いのではないでしょうか」
本特集テーマの意義を根底から覆されそうな疑問を呈したのは、法政大学大学院政策創造研究科教授の石山恒貴氏。この問題は後に触れるとして、まずはエンゲージメントの概念について、改めて石山氏とともに考えてみよう。
別の記事でも触れているように、エンゲージメントには、従業員エンゲージメントとワーク・エンゲージメントの2つの概念が存在するが、そもそも両者を混同させて使っていることが問題なのではないか、という。
「エンゲージメントとは、エンゲージリング(婚約指輪)のように、何かと何かが結びつく状態、何かに対して熱中して行動する状態のことですが、企業そのものに熱中している従業員エンゲージメントと仕事そのものに熱中しているワーク・エンゲージメントは別の概念と考えた方がいいでしょう。しかし、それをひとくくりにしてエンゲージメントという言葉を曖昧に使っている人があまりにも多い印象です」
学術的に尺度が統一されており、世界的に比較可能なのはワーク・エンゲージメントだという。しかし、現状、従業員エンゲージメントしか測っていないうえに、その特徴に無自覚な企業が多いのではないか、と石山氏は指摘する。
「もちろん両者に相関関係はあると思いますが、各企業がバラバラな尺度で従業員エンゲージメントのみを測り、その結果を高い低いと比較して一喜一憂しても、あまり意味がないと思います。経営者は従業員に辞めてほしくないから従業員エンゲージメントを高めようとしがちですが、たとえば『長く在籍するほど退職金が増えるから、仕事は嫌いなのに会社に居続ける』といったことが、従業員・会社双方にとって本当に良いことなのか。従業員からすれば、仕事そのものに熱中できる方がいいのではないでしょうか。仕事そのものへの熱意という観点で考えれば、外発的動機づけで、むりやり自社に社員を縛り付けることは逆効果ともいえます」(石山氏、以下同)
したがって、企業は従業員が仕事に熱中できるか、という「ワーク・エンゲージメント」を高めることに注力した方がよいのではないか、というのが石山氏の提案である。特に日本企業の社員は、国際的な調査でもワーク・エンゲージメントが低いという現実がある。
「ワーク・エンゲージメントの調査結果を見ると、最大値が6点の評価で欧米では平均得点が4点前後に対して、日本人は多くの調査の平均が2.7~2.9点前後に集約されます。日本人はポジティブな回答が抑制されやすく、5段階評価の場合、3の『どちらでもない』につける人が多い傾向にある点を考慮しても低い結果といえるでしょう」
個々を尊重し、強みを伸ばすマネジメント
なぜ日本企業の従業員のエンゲージメントはそれほど低いのか。よく指摘されるのが、上司と部下の関係性である。
「要は、上司が部下に口ごたえさせないマネジメントや、部下の強みを考えないマネジメントをしがちだということです。個人の強みを活かし、伸ばすようなマネジメントをするというのはとても大切なことで、ワーク・エンゲージメントを高めるポイントのひとつだと考えています」