Chapter2│CASE2 LIFULL 社員を信じて任せることが、最大の原動力 同志とつくる「日本一働きたい会社」 羽田幸広氏 LIFULL 執行役員 CPO
社員のエンゲージメントや働きがいに関する数々の調査で、上位の常連となっているLIFULL。
「一人ひとりが仕事に夢中になれる状況」をつくることが経営理念実現の近道と考え、社員を巻き込みながら、“ 日本一働きたい会社” をつくり上げている。
日本一働きたい会社をつくる
不動産・住宅情報サイト「LIFULLHOME’S」の運営をはじめ、暮らしにかかわる事業を多面的に展開するLIFULL。同社は2017年に、リンクアンドモチベーションが主催する「ベストモチベーションカンパニーアワード」で1位を獲得するほか、GreatPlace to Work®Institute Japan が調査する「働きがいのある会社」のベストカンパニーに選出されるなど、社員のエンゲージメントの高い会社で知られる。
今でこそ幸せ企業の代表格であるLIFULLだが、初めからそうだったわけではないと、CPO(Chief People Officer)の羽田幸広氏は語る。
「私が十数年前に人事担当として入社したときは、社是や経営理念は確立していたものの、そのとおりの経営ができていたわけではありませんでした。けれども組織として成長していく以上、この流れを変える必要があると経営陣と意見が一致したのです。そこから改革に乗り出しました」(羽田氏、以下同)
本格的なスタートは、2008年に立ち上げた「日本一働きたい会社プロジェクト」である。経営と人事に加え、社員からもメンバーを募り、当時の社員300人のなかから80人ほどが参加。採用から評価、キャリア開発や風土づくりまで、「働く場」としての会社の礎を社員たちも巻き込んでつくり上げた。
組織の成長にともない、施策の見直しも行われてきたが、基本的な考えは当時の検討内容がベースとなっている。いったいどのような取り組みをしているのだろう。
♣日本一働きたい理由①
理念実践の徹底
「経営理念は会社の方向を示すもの、社是やガイドライン(行動規範)は会社のカルチャーそのものです(写真1)」
多くの会社が自社の在り方を、理念や行動規範の形で言語化している。だがLIFULL の場合はそれにとどまらない。経営や実務と、ビジョンとカルチャーに一貫性をもたせたしくみを講じ、「うるさいくらいに発信しています」と、羽田氏も強調する。
1)マネジメントレベルでの徹底
理念を浸透させるには、経営陣が理念の体現者であるべきと考える。そうした背景から、役員報酬の決定も売り上げや利益だけで評価するのではなく、後述する「役員の心得」や「モチベーション調査」といった指標も重視される。
また、社員の昇格審査も成果や能力だけで決めることはない。
「ビジョンやカルチャーの体現や人望を重視しています。登用前の審査では延べ100人ほどのマネジャーが参加し、会議と現場での言動の齟齬や、周囲のやる気を削ぐ発言はなかったかなど、細かく見ています。日ごろから役員や管理職がメンバーをよく観察していますし、人事側も個別相談を受けたときの情報をストックしています。またサーベイから得られるデータも用いて、複数のソースから判断しています」
組織が一枚岩になるため、一人ひとりを徹底的に見極めている。
2)ビジョンプロジェクトの活動
有志の社員でつくられた「ビジョンプロジェクト」では、理念を実現する組織になるべく、様々な施策を行う。
・ビジョンツリーの作成
理念を自分ごと化するには、自身の業務と理念の結びつきを実感できるかが重要になる。そこでプロジェクトチームが中心となって、部署ごとにビジョンツリーを作成している(38ページ図1)。会社- 部門- 課とビジョンをひもづけ、体現しやすい表現にアレンジするのである。各課のビジョンは半年ごとに見直し、メンバー全員で話し合って決めるのが原則だ。羽田氏は「仕事の意義を理解し腹落ちさせるには、欠かせないプロセスです」と話す。