OPINION1 鍵は人との関わり合い 自己効力感が高めるエンゲイジメント 島津明人氏 慶應義塾大学 総合政策学部 教授
近年、「エンゲイジメント」という言葉が注目されている。
仕事に対する熱意や活力を示す言葉だが、コロナ禍の環境において、上昇と低下の二極化が進んでいるのだという。
ワーク・エンゲイジメント研究の第一人者である慶應義塾大学の島津明人教授に、現在の課題や、若手社員のエンゲイジメント向上について聞いた。
※島津氏の論文に基づき、「エンゲージメント/エンゲイジメント」の表記について「エンゲイジメント」に統一しております。
[取材・文]=平林謙治 [写真]=島津明人氏提供
二極化するワーク・エンゲイジメント
コロナ禍の下、働く人の仕事に対する熱意や活力を示すワーク・エンゲイジメントが、所得格差に応じて二極化している―― 。2021年秋に慶應義塾大学の研究グループが発表した調査結果によると、コロナ禍でのワーク・エンゲイジメントは、高所得層で伸びる一方、所得の高くない層では低下し、働きがいや職場への愛着度にも格差が広がっていることが明らかになった。※
「同じコロナ危機の下にあっても、高所得層の人には、整った職場環境が保証され、在宅勤務など柔軟な働き方もできるので、ワーク・エンゲイジメントはさらに向上しています。一方、所得の高くない層の職場環境はそうではないことが多いため、コロナ禍で状況が悪くなり、ワーク・エンゲイジメントも上がりません。それが二極化の実態でしょう」
そう分析するのは、産業保健心理学が専門の慶應義塾大学総合政策学部の島津明人教授。ワーク・エンゲイジメント研究の第一人者である。
近年、「エンゲイジメント」に注目が集まり、様々な文脈やニュアンスで語られるようになってきた。HRの領域では、「働きがい」を指すのが普通だが、島津氏によると、その概念は2つに大別されるという(図1)。
「1つは従来言われてきた、自社や職場へのコミットメント、いわゆる愛社精神ですね。社員が組織を信頼して主体的に貢献している状態で、『従業員エンゲイジメント』という指標もよく使われます。
もう1つが、自分が関わっている仕事そのものに、どれだけ主体的に活き活きと向き合えているか。その熱意や活力の度合いを示す『ワーク・エンゲイジメント』です。区別して理解する必要がありますが、ワーク・エンゲイジメントが高い人、つまり主体的に仕事に取り組める人は結果として、組織へのコミットメントも高まりやすい。両者はお互いに影響しあっているのです」
コロナ禍においては、多くの人が否応なしに自分の仕事や職場の価値というものについて、深く考えさせられたのではないか。
「それは突き詰めると、そこで働く自分自身の価値と向き合うことでもあります。だからこそ、ワーク・エンゲイジメントも二極化してしまうのでしょう」と、島津氏は指摘する。
※https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD034HM0T00C21A9000000/
働きがいを感じる人は6割弱
元来、日本のビジネスパーソンのワーク・エンゲイジメントは総じて高くない。正確にいうと“高まらない”のだ。
2016年に政府が「働き方改革」を打ち出して以降、一人当たりの年間労働時間は20年までに約100時間減少し、有給休暇取得率は逆に7.2ポイント増えるなど、働きやすさの面では成果が出てきている。しかし一方で、働きがいは向上せず、ワーク・エンゲイジメントに関する各種調査結果でも改善は見られない。