OPINION2 必要なのは「目標管理」と「社員の意思」 日本企業の“都合のいい異動”は、 社員のエンゲージメントを下げるだけ
日本の企業では、当たり前のように行われる定期的な人事異動。
社員の能力開発制度として、長年支持されてきた手法だが、現代社会において、はたして本当に有効だといえるだろうか。
日米の企業事情に詳しい、ロッシェル・カップ氏に、旧来の人事異動の課題とその改善策を聞いた。
“日本型人事異動”の背景
日本の企業の多くは、定期的に人事異動を行う。年に1、2度決まった時期に一斉に辞令を出し、新たなチームで数年働いたら、また違うチームに移る。外資系企業のような、事業部の判断により戦略に応じて必要な人だけを随時異動させるやり方とは大きく異なる。
日本独特の労働慣行と言ってもよい人事異動だが、なぜ定着したのか。その背景には、大きく3つの要素があるだろう。
①江戸時代の参勤交代
歴史の授業で学んだ通り、江戸幕府には参勤交代という制度があった。全国の大名を1年おきに江戸に駐在させるこの制度は、260年という長期政権の礎だったともいわれている。
仕事のためなら、長距離の移動や家族と離れ離れの生活も当然だという考え方がこの時代に確立し、日本人の常識として今も認識されているのではないだろうか。
会社の都合による遠方への転勤をすんなりと受け入れることなど、米国では相当珍しい。ある日系企業の米国法人では、移転の際にほとんどの米国人スタッフが転勤を拒み、転職を選んだという話もよく聞く。日米の労働に対するカルチャーギャップを象徴するエピソードだといえよう。
②終身雇用制度
人事異動の対象となるのは大半が正社員であり、終身雇用が適用される。新卒で採用されれば、離職しない限り、40年以上同じ会社に勤め上げることになる。これだけの長い時間、環境が全く変わらなければマンネリ化も起こる。そこで、気分転換の意味も込めて人事異動を行う。
柔軟な労働市場と違い、人の入れ替わりが起こりにくいところにあえて手を入れる。新たなチャレンジやチームワークの機会を創出することで、ゼネラリストの育成や意欲の向上につなげようという考えだ。
また、職場の人間関係のもつれの解消や、終身雇用であるが故に、会社が最後まで面倒を見なければならない“問題のある社員”の一時的な対処法としても機能する。解雇ができない代わりに“懲罰人事”が存在するのだろう。
③正社員を原則とする雇用形態
日本では、終身雇用と並んで新卒一括採用が主流である。学生たちは即戦力となるようなスキルや経験を原則持ち合わせてはいない。性格や態度、出身校や課外活動などの素性や志向性などからポテンシャルを評価し、採用しているのである。
正社員は生活の安定と引き換えに、興味や適性の有無、もしくは勤務場所に関わらず、会社が命じた仕事を無条件に受け入れる覚悟が必要とされる。
近年では、社員と相談しながらキャリアパスの設計や、希望の配属の確認を行う企業も増えている。だが、たとえ希望がかなわなくても、会社が割り当てた仕事はきちんとやってくださいね、というのが前提である。