第4回 研修の効果測定と改善へのつなげ方 髙倉千春氏 ロート製薬 取締役|中原 淳氏 立教大学 経営学部 教授
一筋縄では解決ができない人事・人材育成のお悩み。
今日もまた、中原淳先生のもとに、現場の「困った!」が届きました。
今回のテーマは「研修の効果測定と改善へのつなげ方」。
ゲストにロート製薬取締役の髙倉千春氏をお迎えし、リアルな現場のお悩みに答えていきます。
研修満足度調査は意味がない!?
中原
研修評価の定番中の定番は、研修直後に行う研修満足度調査です。しかし、昨今はそれほど重視されなくなってきていて、代わりに注目されている指標が2つあります。
1つは研修直後の自己効力感の調査です。自己効力感とは、「あなたはこの研修で学んだことを現場で実践できそうですか」ということを問うものです。研修満足度を問うだけだと、「研修は面白かったけど、現場で実践できる自信がない」となってしまう可能性があります。そもそも研修後に現場での行動変容が起こり、それが成果創出につながらなければ、研修の意味はありません。成果創出はともかく、行動変容までは研修を実施した部門が責任を持つべきだと考えると、行動変容を導くものは、「研修満足度」ではなく、研修後に実践できそうかどうかを測る「自己効力感」だというわけです。
もう1つの評価指標は、研修転移です。研修後、研修内容が実践できているかどうかを一定の時間を置いて問う「遅延質問紙」によって調査します。研修後、3カ月ほど置いた後に、「やってみましたか?」と尋ね、研修内容が転移したかどうかを測るというものです。
髙倉
研修効果を定量的に測ることは重要ですが、研修の効果というのは本人の成長だけではなく、周囲にどれだけの影響を与えたのか、というところも大きい気がします。
中原
おっしゃる通りです。大切なのは、研修で学んだ内容が現場で実践され、役に立っているかどうか。意外と人事の皆さんは現場に行きたがらないのですが、私はこの方に、まずは現場を訪ね、研修受講者やマネジャーの方に直接話を聞いてみることをおすすめします。研修担当者のやりがいという意味でも、自分のやった研修が役に立っているという実感が大事でしょう。必ずしも数字やデータで測る必要はありません。
経営の意図が研修の重要度を決める
髙倉
私も研修後の満足度調査のようなものはあまり意味がないように思っています。
そこで、以前はビフォーアフターの360度評価をやっていました。研修前に部下、同僚、上司の360度評価を行い、自分を見つめ直してから研修に入ってもらうのです。研修後、半年、1年ほどたった後、研修終了時に宣言した通りの行動変容ができたのか、周囲の人たちはどう見ているのか、ということを、研修前と同じ質問で再度360度評価を行います。すると、自分がどれだけ成長したかだけでなく、周囲からどう見られ、どのような影響を及ぼしているのかがわかります。
このような形で周囲を巻き込むと、ポジティブなフィードバックがかかりやすく、また、周囲からも研修に対して理解が得られ、支援が得られやすいというメリットもあります。
中原
それは一番いい方法だと思います。なぜなら、研修で学んだことが転移するかどうかは、本人だけの要因ではなく、上司と同僚の理解が大きいからです。ビフォーアフターの測定をすると、本人を取り巻く人たちに「研修に行って学んできたのだな」という意識を持ってもらうことにつながります。ですので、研修の前後、プレとポストで周囲の人たちを巻き込んで評価を行うのが一番いい。ただ、かなり手間がかかるので多くの会社では、そこまではできないのではないか、と思います。