CASE1 DeNA|スクラム導入で仕事の属人化を防ぐ 戦略人事にチームで取り組み パフォーマンスの最大化を図る 菅原啓太氏 DeNA 執行役員 ヒューマンリソース本部 本部長
HRBP(HRビジネスパートナー)制度を導入して8年が経つデジタルサービス大手のDeNA。
同社のHRBPは「HRBPチーム」という名の通り、戦略人事にチームで取り組むことに主眼を置く。それはなぜか。
そして独自の「HRBPスクラム」という手法について、HR本部本部長である菅原啓太氏に話を伺った。
脱・御用聞きがHRBPの第一歩
DeNAのHRBP制度開始は2014年と、いち早い。EC・オークションサイトの創業からゲーム事業に展開し、いまではヘルスケアやライブストリーミング、スポーツにAI開発と、事業領域は多岐にわたる。執行役員で、ヒューマンリソース本部の本部長である菅原啓太氏は、次のように当時を振り返る。
「事業の多角化とあわせ、組織規模も急拡大していたころでした。解像度の高い戦略人事を行うには、従来の人事体系を変える必要があると考え、HRBPを導入したのです」
今でこそ事業リーダーからも厚い信頼を得るHRBPだが、最初は手探りの状態が続いた。
「そのころの私はゲーム事業でマネジャーをしていて、HRBPのサポートを受ける側の立場でした。どういう役割なのだろう、何を相談すればいいのだろうと、頭に無数の疑問符が浮かんだのを覚えています」(菅原氏、以下同)
そして半年後、今度はHR本部長直々のオファーにより菅原氏自身がHRBPとなる。いざ事業を支援する立場になると戸惑った。人事の切り口で事業にアプローチする術が、わからなかったのである。
「初めはマネジャーの話を聞き、彼らの仕事を肩代わりするようなことしかできませんでした。重宝はされましたが、次第に『いや、これは違うぞ』と思うように。事業のパートナーではなく、ただの“御用聞き”と化してしまっていたからです」
脱却のきっかけは、人事のフィルターを通して経営課題を捉えたときだ。その頃のゲーム事業は、なかなか新規タイトルを出せずにいた。既存タイトルに多くのファンがついていたことから、業績は維持できていたとはいえ、手札が手薄な状態は中長期的に見れば大きなリスクである。
新たなゲームを生み出せない理由はどこにあるのか。菅原氏は、慢性的な人材不足に目をつけた。採用活動は積極的に行っていたものの、それを上回るペースで離職が進んでいたのだ。人が足りなければ、新しいことに着手するのは困難である。
「採用強化や退職慰留など、個別に手は打っていましたが、それは対症療法に過ぎません。もっとマクロで見て真の原因に迫る必要があると考えました(図1)」
人が辞めていくのはなぜなのか。当時150人超の組織に、マネジャーはわずか4人。彼らはプレイヤーも兼ねており、多忙を極めていた。そのため部下へのフォローが手薄となり、人が次々と辞めていく状態になっていたのである。新規タイトルに取り組めない原因は、マネジャー不足にあると菅原氏は突き止めた。
そこで打ち出したのが、マネジメント体制の刷新だった。具体的にはマネジャーの数を倍以上に増やした。当然、4人から10人前後に増やすとなれば、マネジメント未経験者も登用することになる。その適任の見定めこそ、事業と人を熟知したHRBPの出番だ。タレントマネジメントの観点で、志向性と適性から選抜した。また、育成においては、様々な事業の現場で組織を束ねて来た菅原氏のこれまでの経験も生きる。翌年には離職率の半減に成功したという。