CASE 1 MSD リーダーの戦略的育成を支える 人財を早期発掘し、加速度的な育成を促進
世界的なヘルスケアメーカーの日本法人であるMSD。
強いリーダーを育成するという戦略のもと、大胆な人事施策を断行する。
経営を担う資質のある社員を早期に発掘して加速的に育成し、「キータレント」として経営陣と共に鍛え上げる。
同社の次世代リーダー育成、それを支える人事の決意、実行力とは。
● 背景 革新的な企業に
高齢化に伴う医療費抑制政策などにより、医薬品メーカーを取り巻く環境は厳しくなりつつある。それは、グローバル企業の一員として数々の医療用医薬品やワクチンを開発・製造・販売するMSDにとっても例外ではない。
「製薬会社を取り巻く環境は今までにないスピードで変化しています。革新的な新薬を開発するだけでなく、経営のさまざまな面での改革が求められています」
取締役執行役員 人事部門統括 兼人事部門長、太田直樹氏はそう語る。
「革新的な製品を開発し、提供するというMSDのミッションを達成するためには、自ら変化を生み出す自律型人財の確保が急務です。従来の経験則が通用しない領域で、プロジェクトを推進できる強いリーダーが必要なのです」(太田氏、以下同)
2011年、同社は革新的な企業へと進化することを目標に「10カ年戦略計画」を策定し、それに基づく戦略的な人財開発の方向性を打ち出した(図)。
「10カ年戦略計画」は、「2020 年までに日本で最も優れたヘルスケア企業となる」というビジョンのもと、「評判」、「成長」、「人財」の3つの柱と、それを支える10 項目からなる。このように、「人財」を柱の1つにするほど人財戦略を重視している同社が重点的に取り組むのが、「人財育成」と「ダイバーシティ&インクルージョン」である。
同社のタレントフィロソフィー(人財育成方針)には次のような項目がある。
1. プロフェッショナルとしての幅広い専門性と深い専門知識習得のための能力開発は、全社員に実施する。
2.リーダーやリーダー候補者への育成投資は、選抜した社員に対し、集中的に行う。
1.は理解しやすいだろう。社員一人ひとりがプロフェッショナルとして存分に実力を発揮できれば、会社全体の競争力が高まるからだ。注目したいのは、2.である。
「将来、会社を牽引すべき人財が真のリーダーとして活躍できるように、選抜教育の仕組みを導入しました。ポテンシャルの高い人財を早期に見極めて、集中的・徹底的に投資し、“強いリーダー”を育てることに力を入れています」
● 施策1 経営陣主導のリーダー育成
その狙いがよく表れている制度が、2011年開始の「ジャパン・リーダーシップ・プログラム(JLP)」である。まず、社員の中から、将来、経営を担えるレベルへ成長する資質を持つ人財を早期に選び出す。そのうえで一人ひとりにカスマタイズされた個別育成プログラムを3年間にわたって集中的に提供する。