OPINION1 データ分析に基づいた人事戦略の必要性 人事に求められる「データ&アナリティクス」能力とは 中原孝子氏 インストラクショナルデザイン 代表取締役
人材・組織開発の世界的組織であるATD(Association for Talent Development)が、2019年に人材開発の専門家に求められる能力モデルを刷新した。
「組織能力への影響力」というセグメントが設けられ、そのなかに、新たに「データ&アナリティクス」が加えられたのである。
具体的にどのような能力が求められるのか。
ATDの日本における会員コミュニティー副代表の中原孝子氏に聞いた。
未来にフォーカスした「ケイパビリティ・モデル」
ATDでは、人材・組織開発のプロフェッショナルに必要な能力モデル(知識・スキルの基準)を提供している。その能力モデルが2019年に6年ぶりに改定され、従来の「コンピテンシー・モデル」から「ケイパビリティ・モデル」(図1)へと刷新された。この変化について、中原氏は次のように解説する。
「コンピテンシー・モデルが現在の職務を遂行するために必要な能力の指標であるのに対して、ケイパビリティ・モデルは、環境変化のスピードが速まるなかで、将来的に必要となる能力も視野に入れた指標になっています。これまでの人事は、現在にフォーカスしがちで、起こった問題に対処する傾向がありました。そこでケイパビリティ・モデルには、人材開発の本来あるべき姿である、人や組織の将来にフォーカスし、行動の意図を示し、さらにインパクトの実証を明確にしていくという意味が込められています」(中原孝子氏、以下同)
従来のコンピテンシー・モデルでは、6つの基礎的なコンピテンシーのうえに、トレーニング・デリバリーやインストラクショナル・デザインなど、人材開発における10の専門領域が示されていた。他方、ケイパビリティ・モデルでは、大きく「個人能力の構築(Building Personal Capability)」、「専門能力の開発(Developing Pro-fessional Capability)」、「組織能力への影響力(Impacting Organizational Capability)」の3領域に分類された。
「個人能力の構築」ではすべての社会人が持つべき基礎的な知識・スキfessional Capability)」、「組織能力への影響力(Impacting Organizational Capability)」の3領域に分類された。「個人能力の構築」ではすべての社会人が持つべき基礎的な知識・スキル、「専門能力の開発」では人材開発の専門家が持つべき知識とスキルがそれぞれ示されている。そして「組織能力への影響力」では、人材開発が組織のパフォーマンス、生産性、業務成果を促進する主要なメカニズムであることを保証するために、専門家として必要とされる知識・スキルが示されている。
「個々の専門能力はもちろん必要ですが、人材開発にとって何より重要なことは、組織に対してインパクトを与えることです。そのためにはこれらの3つの領域が重なり合う必要があることから、能力モデルの表し方を変えたのです」
以前のコンピテンシー・モデルで示されていた専門領域は、すべてケイパビリティ・モデルで示されている23の能力要素のなかに含まれており、さらに「データ&アナリティクス」などの新たな能力が追加されている。