CASE3 イケア・ジャパン|サステナビリティへの取り組みはビジネス戦略の一環 バリューの体現がつくる持続可能な組織と社会 マティアス・フレドリクソン氏 イケア・ジャパン Sustainability Manager、他
家具、ライフアイテム販売のグローバル企業のイケアでは、国連が2015年にSDGsを発表する以前から、サステナビリティ戦略を前面に打ち出した経営を実践してきた。
その方策は、ビジョンやバリューと精緻に一致しておりブレがない。
国内の従業員に向け、どのような形で浸透を図っているのか。
担当者に話を聞いた。
サステナビリティ戦略はビジネスチャンス
スウェーデン発の家具、ライフアイテムチェーンのイケアでは、国連がSDGsを定める2015年よりも早く、サステナビリティを企業戦略に打ち出している。「ピープル・アンド・プラネット・ポジティブ戦略」(以下、PPP戦略)とよばれるもので、2012年に初版を発表した。これは、イケアのフランチャイズシステムとバリューチェーンに属する人々すべてに共通したアジェンダと目標だ。イケア・ジャパンSustainability Managerのマティアス・フレドリクソン氏は、その狙いを次のように語る。
「イケアには『より快適な毎日を、より多くの方々に』というビジョンがあります。実現には会社として地球や人類の課題に向き合い、イケアが社会にあってよかったという存在になることが重要なのです」
事実、イケアの地球への影響力は非常に大きい。フレドリクソン氏の話によれば、原材料の生成や加工、製品の製造と輸送、店舗への顧客の来店や購入製品の自宅での使用、製品の寿命まで、バリューチェーンとしての活動すべてを見たときに、世界で排出される温室効果ガスの0.1%、また木材の流通量の1%がイケアのビジネスによるものといえるのだという。また家具や生活雑貨など同社が扱う商材を踏まえると、資源の枯渇は死活問題に直結する。
「こうした問題には、できるだけ早く着手することが肝心だと考えます。深刻化してからでは対策コストが膨れ上がるだけでなく、“快適な毎日”からは遠ざかってしまう。中長期的な視点に立って、早い段階のうちに楽しく取り組むことが大切です」
この言葉の背景には、ポジティブチェンジの発想がある。PPP戦略には、人と社会(経済)と地球によい影響を与えることで、快適な暮らしの実現につなげることが明記されている。地球上の諸問題を課題としてだけでなく、ビジネスチャンスとしてとらえているのが特徴だ。
「イケアには、年間約8億人、ウェブサイトには約40億人のお客様がご来店されます。またイケアの仕事の周りには、たくさんのサプライヤーやパートナーがいらっしゃいます。私たちが事業展開や発信するメッセージにサステナビリティを織り交ぜれば、世界規模でのインスパイアにつながるはずです」
グローバルなスケールで展開しているからこそ、サステナビリティな取り組みが大きなインパクトを与えると確信しているのである。
経営指標と同列の目標設定と創業時からの倹約精神
現在イケアが運用するPPP戦略は、2018年に発表した改訂版である。大枠は初版と同様だが、SDGsに準拠する形で内容を見直した。気候変動と持続不可能な消費、不平等を重点課題とし、その対応策として「健康的でサステナブルな暮らし」「サーキュラー&クライメートポジティブ(循環型ビジネスへの移行と気候変動への対応)」「公平性とインクルージョン」という3つのフォーカスエリアを設けた。目標とコミットメントは基本的にSDGsが掲げる17の項目すべてに対応し、2030年までに達成することを目指す。
ポイントは、戦略を事業活動に組み込んでいることだ。組織のゴールには、サステナブル関連の項目が並ぶ。温室効果ガスの排出量を○%削減する、売り上げに対するサステナブル商品の比率を○%にするなど、一般的な経営指標と同列の重さをもつ。