企業事例3 「道学」で人格を向上し「三方よし」の実現をめざす
人格の育成向上なしには、どんな知識やスキルも真に活かせず、商売(ビジネス)も成り立たない――近江商人のDNAを受け継いできた小泉産業グループが行う人間性教育とは。「道学」と「実学」が折り重なっていく独自の教育体系を明らかにする。
商売人であるために人格者であれ
商人道を歩む者として、顧客に愛され、信頼される人間になること。仕事に生きがいとやりがいを求めて、生涯をかけて挑戦できる人間になること――。すなわち社員の「人格の育成向上」を社是として掲げ、教育を行っている企業がある。小泉産業株式会社グループだ。
底流にあるのは、脈々と受け継がれてきた近江商人の魂である。同グループの始祖である小泉武助氏が近江産の麻あさぬの布の行商に出てから290年あまり。以来、良き商人として「三方よし」(売り手よし、買い手よし、世間よし)の精神を大切にしながら、社会から必要とされ愛される“価値創造の専門集団”をめざしている。
人事・総務部長の甲斐氏は、人格形成こそビジネスの根本だと語る。「人格を高めなければ商売は続けられません。社会に必要とされる存在であるためには、社会に役立つ存在でなければいけないからです。そういう集団であるために、目先の儲けではなく、社会のための商売とは何かを考え、商売を通じて人格の育成向上を図るのが、小泉産業グループの教育の基本です」「人格の育成向上」を図る具体的な要素として、同グループは「道学」を社員教育に取り込み、人間力を高める機会を社員に提供している。
人間の原理・原則を古今東西の至言で伝える
「 道学」とは、①道徳を説く学、②儒学、特に朱子学の称、③道家の学問。道教。④心学の別称(『広辞苑』)だという。しかし、同グループにとっての「道学」を一言で括るのは難しい。それは人としての原理・原則であり、物事に対する考え方であり、気づきであり、生き方ともいい換えられる。あらゆることのベースになるものであって、「道学という土台が大きく強力であるほど、その上にたくさんのスキルや知識を積み上げていける」(甲斐氏)ものなのである。
道学研修が開始されたのは1999年。当時の厳しい経営環境の中で勝ち残るために、リーダーには強い信念や正しい倫理観、部下を惹きつける人間的魅力といった「人間力」が求められたのである。
現在、同グループでは人材の能力を4つの段階に分けて考えている(図表1)が、道学の位置づけとは。「一番下にある『ポテンシャル』は、人にあらかじめ備わった資質です。その上にあるのが価値観や考え方で、ここが道学に当たる『スタンス』です。『スキル』は、さらにその上に乗る。どんなビジネススキルも専門知識も、実践には必ず道学的な要素がかかわってきますから、道学に触れてきたかどうかがその後の成果にも影響します。
たとえばコミュニケーションのとり方ひとつでも、目的に沿った機能的な情報伝達の前に、相手の感情を考え、感じ取る心情的な理解が大事です。こうした意識や行動を習慣づけるのが道学の領域なのです」(甲斐氏、以下同)。