CASE2 中外製薬|SDGs推進がもたらす組織の変化 ボトムアップ型施策が育むイノベーション人財 森 恵美子氏 中外製薬 サステナビリティ推進部 企業倫理推進グループ 副部長、他
がん領域の医薬品で国内トップシェアを誇る中外製薬。
いち早く抗体医薬品の研究開発に取り組み、独自の抗体エンジニアリング技術において世界をリードしている。
同社は2019年に新たに発表した経営の基本方針を機に、SDGsの開発目標の実現にも取り組んでいる。
その取り組みが社員にどのような変化をもたらしたのか。
SDGs推進タスクチームの3名に話をうかがった。
1925年創業の中外製薬は、2002年にスイスの大手医薬品メーカーであるロシュと戦略的アライアンスをスタートし、外資系となった。アライアンスを契機に、全社員を対象とした行動規準を浸透させるための研修を毎年実施。テーマは、企業倫理、コンプライアンス、人権などが中心だったが、時代とともにサステナビリティの考え方も取り入れられ、19年にSDGsへと範囲が広がった。サステナビリティ推進部企業倫理推進グループの森恵美子氏は、経緯を次のように語る。
「2019年発表の中期経営計画において、経営の基本方針として『当社と社会の共有価値創造』を掲げました。中外製薬の事業がSDGsで掲げる開発目標に寄与しうるものであることは数年前から認識されていたため、経営計画の策定とあわせ、SDGsの17の目標を精査しました。そして、そのうち11の目標について重点的に取り組むことを決定しました」
11の目標への取り組みには濃淡がある。最重点目標としたのは3番の「すべての人に健康と福祉を」だ。さらに、3番の目標を実現するために必要な4目標(8、9、12、17)、事業活動の基盤となる6目標(5、6、10、13、15、16)を定め、計11の目標に重点的に取り組むことになった。
1人の社員の働きかけでSDGsへの取り組みが加速
新たな経営基本方針から始まったSDGsへの取り組みはトップダウン型といえるが、中外製薬のケースが興味深いのは、ほぼ同時期にボトムアップでも提案があったことだろう。
ボトムアップの起点となったのは、プライマリーライフサイクルマネジメント部Neuroscience領域戦略グループの北川達也氏だ。SDGsに着目したきっかけを本人はこう明かす。
「私はもともと斜に構えるタイプで、当初は社会貢献やCSRといわれても興味をもてませんでした。しかし18年の夏に、SDGsを理解するゲームのイベントにたまたま参加し、『自分たちの利益を追求しながら、それがサステナブルな社会に貢献できるなんて』と衝撃を受けたんです。ぜひ当社でも何か取り組みたいなと思いました」
北川氏が考えたのは、SDGsの理解を深めるワークショップと、会社として取り組めるSDGsの具体的なアイデアを募るコンテストだ。
ただ、北川氏は事業部門の一社員。全社的な取り組みにするためには、コーポレート部門を巻き込む必要がある。そこでまず企画を持ち込んだ先が経営企画部だった。提案を受けた経営企画部戦略企画グループの古本健太朗氏は、そのときの印象をこう語る。
「北川の熱量が非常に高くて、断れなかったんです(笑)。それは半分冗談で、ちょうど我が社が共有価値の創造を経営方針の真ん中に置いたときでしたから、SDGsのアイデアを社員から抽出して実行するコンテスト企画はとてもいいと思いました」
一般的にSDGs推進のための企画は、担当であるサステナビリティ関連部門や、全社の司令塔である経営企画部門がリードして行うケースが少なくない。北川氏も提案後はそうなるかと思っていたが、「古本が『熱量をもった人間が最後までかかわった方がいい』といってくれて、タスクチーム式でやらせてもらえることになったのです」(北川氏)
一方の古本氏は、「新しい取り組みなので、組織をがっちり固めてからやるより、緩く始めて徐々に体制を整えていけばいいと考えました」と語る。