COLUMN Learningは社会の土台 課題解決の第一歩は“自分ごと化”教育格差のない社会を目指して 李 炯植氏 Learning for All 代表理事
SDGsの17の目標のうち、初めに掲げられている「(1)貧困をなくそう」。
貧困は、社会基盤となる「(4)質の高い教育をみんなに」の大きな障壁となっている。
人材育成に携わる私たちは、「貧困と教育」の問題に対し何ができるのか。
経済的貧困、不登校など様々な困難を抱える子どもたちの学びと成長を支えるLearning for All は、社会のダイナミックな変化を仕掛ける変革リーダー集団だ。
団体の創設者であり代表の李炯植氏に、解決に至るプロセスをどう設計し、人を育てているかを尋ねた。
一人ひとりに寄り添いつつ社会のしくみを変える挑戦
企業におけるSDGsの取り組みといえば、働き方改革や脱炭素といった課題が主体となることが多い。だが、17の目標の「(1)貧困をなくそう」は、まさにSDGsの一丁目一番地であり、どの国も取り組むべき課題だ。
GDP世界第3位の経済大国・日本も、所得が中央値の半分に満たない人の割合「相対的貧困率」は、厚生労働省によると15.4%。OECD加盟国のなかでも平均を上回る。また、17歳以下の子どもの相対的貧困率は13.5%と7人に1人であり、ひとり親世帯の相対的貧困率では48.2%と、およそ半数だ。
家庭の経済事情から、幼少期の基礎学習が不十分で、稽古ごとや塾通い、大学進学などもできない子どもも多い。特定非営利活動法人Learning for All(LFA)代表理事、李炯植氏は「子どもは社会の宝。少子高齢化が進むこの時代、1人も取りこぼすことはできません。すべての子に平等に教育機会を与えなければ」と語る。
そもそも教育の役割は大きく「主体化」「社会化」「資格化」の3つに分かれる、と李氏は説明する。これは、ガート・ビースタ著『よい教育とはなにか』で提唱されている説で、まずは、生存のための能力を身につけ(主体化)、次に言語や社会的ルールを覚えて周囲と共生する力を育む(社会化)。そのうえで学校を卒業したり、資格を取得したりする(資格化)。
「この3つの過程を経て、はじめて人は自立し、よりよい社会をつくるメンバーになることができます。ところがいまは基礎計算ができない、文章が書けないなど最低限の学力も得られないまま労働環境に出る子どもたちがたくさんいる。結果的に自分らしい自由な人生を生きられず、社会参画を阻まれる人が増えてしまうのです」
SDGsの目標「(1)貧困をなくそう」が実現できていないことが、「(4)質の高い教育をみんなに」の実現も阻んでいるということだ。
2010年から活動を開始し、2014年に発足した李氏が代表を務めるLFAでは、貧困などの困難を抱える6~18歳の子どもを成長段階に合わせてサポートしてきた。展開するのは、居場所づくり・学習支援・食事支援・保護者支援などトータルな「地域協働型子ども包括支援」だ。だが、活動はそれだけにとどまらない。
「私たちが最終的に目指すのは子どもの貧困問題の“本質的解決”。目の前の子どもの学びを支えることはもちろん重要なミッションですが、あくまで問題への“対応”であって、真の解決ではありません。すべての子どもが自立して生きられる世の中にするには、本気で社会のしくみを変えなければ。一方で実践がなければ支援や問題の実情がわかりませんから、具体的な解決策が見えてきません」
そこでLFAでは、3つのアプローチを通して問題に向き合っている(図1)。1つめは「一人に寄り添う」。先述のとおり、学生ボランティアやスタッフたちが居場所づくりや学習支援によって子どもたちの成長を支える。直営拠点は東京都、埼玉県、茨城県にある計25カ所だ。
2つめは「仕組みを広げる」。貧困家庭の子どもの自立を支える活動、学習支援活動はすでに様々なNPOが展開しており、全国600以上の自治体が学習支援プログラムを提供している。LFAは地域協働型子ども包括支援の全国展開を目指し、これらの団体にノウハウを提供する。たとえばボランティア向けのeラーニング教材を開発し、配布するなどだ。支援にあたり、参考になる事例やノウハウを集めたサイト「こども支援ナビ」も運営する。また、ゴールドマンサックスとともに立ち上げた助成金プログラム「地域協働型子ども包括支援基金」を通し、資金面の悩みにもこたえる。