OPINION 1 組織を担える人材を持続的に生み出す 戦略的かつ効果的に育成する リーダーシップ・パイプライン
これからの予測不能な社会では、業績結果によるリーダー選びではなく、リーダーを連綿と生み出す戦略的な仕組みの構築が重要だ。
そうした仕組みのひとつとして、リーダーシップ・パイプラインに焦点を当てる。
この仕組みの特徴について、髙橋 潔 神戸大学大学院 教授に聞いた。
問われる「リーダーシップ不全」
日本人はそもそもリーダーシップについて考えてこなかったのではないか。もちろん、これまでも米国発のさまざまなリーダーシップのモデルが紹介されてはきた。しかし、「日本人にとってリーダーシップとは何か」と問われると、答えられない人が多いようだ。
そのことに私たち日本人が気づいたのは、2011年に起きた東日本大震災の時だろう。大津波と原発事故が一度に起こり、当時の政権におけるリーダーシップの欠如が露呈した。米国がリーダーシップを妄信し始めた日が2001年9月11日だとすれば、我が国がリーダーシップを疑問視し始めた日は2011年3月11日である。
この『リーダーシップ不全問題』は、以前からさまざまな現場で認識されていたはずだ。それでもさほど表沙汰にならなかったのは、現場を担当する日本人が“よくできている”からだろう。日本の組織はリーダーシップを発揮しなくてもちゃんと動く。総じて責任感が強い、という国民性のゆえだろう。また、比較的安定した環境のもとでは、人々は自分の役割を認識し、責任感を持って仕事をこなしていく。だから組織に長が、グループにリーダーがいれば、それでリーダーシップが存在していると信じられてきた。
とはいえ、日本企業では何か問題が起きても、実質上リーダーが責任を追及されることは少ない。意思決定の際も稟議制が採られるなど、連帯責任が不文律となっている。だから、リーダーが自分の意見を押し通して、重要事項を決定するケースはさほど多くない。いささか皮肉な話だが、日本人は「責任感は強いが、責任を取らない傾向がある」ということになる。
リーダーの育ち方も海外と日本とでは違う。米国では多くの場合、MBAホルダーなど高い能力を持つ人材を外部から抜擢し、リーダーに就かせる。彼らは激しい競争を勝ち抜き、いくつものポジションを経験して、自助努力でリーダーシップを獲得する。一方、日本では新卒から年数をかけて育成され、仕事の能力を向上させていく。だから、責任を厳しく問われたり、人を動かす難しさに直面したりといった経験が足りない。結果的にリーダーシップに必要な素養を十分に伸ばさず、上に立つことになる。
また日本では、リーダーシップは与えられた役割や地位ではなく、「個人がもたらす影響力」だということが理解されていない。「出る杭は打たれる」という諺があることからもわかるように、突出したリーダーシップを受け入れる土壌がないのだ。
人にはそれぞれ個性があり、リーダーシップの発揮の仕方や存在感の引き出し方も人それぞれである。地位や役割だけを与えたら、「リーダーシップ、ハイできあがり」というわけにはいかない。今こそ、リーダーシップとは何か、腹を据えて考えるべきだろう。
リーダーシップの4つの働き
まずは、リーダーシップにいろいろな機能があることを知っておきたい。図「リーダーシップ脳の4次元」は、リーダーシップの4つの働きを表したものだ。「業務系(理性)」と「対人系(感情)」という2軸に、「未来志向」「現在志向」の時間軸を組み合わせた。
業務系と対人系は「リーダーシップの不動の2 軸」と呼ばれている。業務系は仕事の考え方で、理性(左脳)によって支配される。対人系は人間関係のとらえ方で、感情や感覚(右脳)に左右される。2つの軸は、そのどちらによって職場の問題を考えがちか、という傾向を指している。一方、未来志向と現在志向は、未来を想像する、人間だけに特有な“新しい脳(前頭葉)”の働きと、生物が昔から持ち続けてきた、現在に固着する“古い脳”の働きに関連するといえそうだ。これに基づきリーダーシップの4つの働きを分けると、次のようになる。
1.業務系+未来志向→ビジョン型リーダーシップ(イメージリーダー)