チャンスは平等に、それをつかめるかは自分しだい 中村雅行氏 オカムラ 代表取締役 社長執行役員
コロナ禍で多くの企業がオフィス縮小に舵を切るなか、直近の決算で過去最高益を記録したオフィス家具最大手のオカムラ。
同社の中村雅行社長は弱冠27歳で部門長に任命され、その後およそ13部門をわたり経験を積んだ生え抜きだ。
注力する人材育成においては、特に次世代リーダー人材層に良い経験を与えることを意識している。その心は。
─直近の経営課題について教えてください。
中村(雅行氏、以下敬称略)
この1年間、コロナですっかり景色が変わりました。コロナ前、在宅勤務というと、多くの経営者は「在宅勤務なんて本当に仕事をしているかわからないじゃないか」という感覚をもっていたでしょう。しかし、緊急事態宣言という“天の声”があり、いまや在宅勤務は当たり前になった。世の中の価値観やしくみが変わると需要が変わります。需要の変化は、ただ落ちるだけではありません。下がる需要もあれば、新しく出てくる需要もあります。それは企業にとってビジネスチャンス。このチャンスをとらえられるかどうかが直近の課題です。
具体的に言うと、在宅勤務でオフィスへの出社人数が減ったためオフィスの解約を検討する企業が増えました。たとえば、いままで5フロアだったオフィスが4フロアになる。オフィス面積が減ると、家具は売れなくなります。ただ、残った4フロアは改装です。働き方が変わったことにより、全社員分の机は置かずフリーアドレスにしたり、みんなで議論する仕事が中心になるから、人がわっと集まってわっと散るのに適した可変式の什器も必要になる。家具の入れ替えが発生するのです。そういう新しい需要に合わせて迅速に体制を変えていくことが大切です。
もっとも、変化対応が必要なのはコロナ禍に限った話ではありません。たとえばいま新しい体制を構築しても、コロナ収束後にはまた新しい動きが起きるでしょう。会社の組織やシステムはつくった瞬間から陳腐化が始まります。常に世の中の変化を読んで方向性を示して、組織の変化を促していくことが、経営の変わらぬ仕事です。
育成とコストカットを同時に叶える全社横断プロジェクト
─変化を読んで自ら動ける次世代のリーダーは、どうすれば育成できるでしょうか。
中村
ビジネスの成功は、「経験」「知識」「ビジネスセンス」という3つの要因の掛け算で決まります。
「経験」は失敗の多さに直結します。誰も失敗しようと思って仕事しませんが、それでも失敗してしまう。その原因を探れば、失敗が経験になります。
「知識」は、セオリーですね。たとえばマーケティング理論のように普遍的に使えるセオリーは知っておいた方がいい。
そして「ビジネスセンス」。料理人は皿洗いから始めて、先輩のやり方を見て覚え、それから自分の工夫を加えますよね。その工夫で何かをつかむことができたら、それが料理人のセンスになる。ビジネスも同じで、一流の先輩をまずまねて、そこに何かつけ加えていくことでセンスが磨かれていきます。
ただ、会社はこれらの要素を伸ばす機会を与えることしかできません。会社が人を“育てる”なんておこがましい。まずは本人が自分で育つ強い意志をもたないとダメ。いろんなものを見て経験を増やす。自分で本を読んで知識を身につける。そして仕事で試行錯誤してセンスを磨く。そういう姿勢がないと、いくら会社が機会を与えたところで伸びません。