講演録 日本CHO協会「オンライン公開シンポジウム」レポート “自律型人材”が求められる時代の人材開発/人材育成を考える 滝波純一氏 張 士洛氏 兼清俊光氏
2021年3月24日に開催された「オンライン公開シンポジウム」(主催:日本CHO協会)。
人事/人材開発コンサルティング業界のトップ4名が登壇し、先行きの見えないコロナ禍、そしてVUCAの時代において、その育成が急務となる「自律型人材」についての知見や研究成果について語った。
本稿では、そのダイジェストを紹介する。
当日に先んじて日本CHO協会は、会員並びにシンポジウム申込者に「『自律型人材と人材開発/育成』に関するアンケート」を行った。シンポジウムでは現在、自社内に自律型人材はどの位いると思うか?」等の結果が引用されながら発表が行われた。その部分は本稿では割愛するが、協会ホームページにて結果が公開されている※。
※ https://www.j-cho.jp/enq/pdf/2103_01.pdf
自律型人材とはどのような人材か?
当社では、自律型、つまり変化が激しい世の中でも道を切り開いていくリーダーの特徴を、世界15万人以上のアセスメント結果等の情報をもとにリサーチし、「セルフ・ディスラプティブ・リーダー(以下、SDL)モデル」としてまとめています。
SDLとは、「自分の殻を壊しながら成長していくリーダー」という意味合いですが、このリサーチから見えてきた5つの特徴から頭文字をとったものが「ADAPTモデル」です。
A は「先見性(ANTICIPATE)」。不透明な状況下にあっても組織的な取り組みに対して方向性を示し、統合する力。D は「活性化(DRIVE)」、人々を活気づけ、内発的なエネルギーを生み出すための前向きな環境を育む力です。3つめは「スピード(ACCELERATE)」。アジャイルなプロセスを使いながら、迅速にアイデアをものにしていく力。P は「パートナーシップ(PARTNER)」。自社内外でパートナーシップを形成し、連携を促し、能力を相互に補完しあい、高いパフォーマンスを実現していく力です。そしてT は「信頼(TRUST)」。多様な視点・価値観をもった人たちのなかで信頼関係を構築する力です。
SDLをいかに増やしていくのか。その答えは「発掘=アセスメント」と「育成=開発」にあります。科学的に人材モデルを定義することで、誰がSDLの素養をもっているかがわかります。また、個々人にとっても、SDL モデルに対して、自分の強みや開発すべき課題を明確にすることができます。
なお、企業がSDL を定義する際、ポイントとなるのは「能力」だけではありません。前述の5つの特徴と同様に重回帰分析から見えてきた「性格特性」と「コンピテンシー」が参考になります。特に前者については、新しい道を切り開き、自律的になることが性格的に得意ではない人も実際には多くいるため、マインドセットの変革が重要になります。
自律型人材育成のアプローチとしくみ
SDL を育成するためにどのようなしくみが考えられるか。これには、そもそも「どういう人材を開発したいか」という①「人材要件の定義」により、自律型人材のモデル化を行います。
定義ができたら、求められる人材要件とのギャップを可視化していく②「評価・発掘(アセスメント)」へと移行します。成人学習では、「今の自分」と「ありたい自分」、そのギャップを明らかにすることが出発点となります。それが能力開発におけるエネルギーとなるからです。
最後は③「育成施策の実行」です。ここでポイントとなるのは、会社主導で育成施策を行うだけではなく、社員が自律的に能力開発ができるような学習プラットフォームを提供していくことです(図1)。
また、今後、社員の自律的育成においては、ジョブ型の人材マネジメントのしくみが重要になってくると考えられます。従来の、企業が任命権をもって配置や異動を行う形から、今後は企業が求める仕事を定義して、「職務」と「能力・スキル(パフォーマンスを出すために求められる要件)」をセットで定義し、自律的な能力開発やキャリアパス、採用を進めていくことが重要になるということです。
自律型人材を惹きつけ、リテインするには
昨年(2020年)、NIKE社の社長兼CEO、ジョン・ドナホー氏とセッションをした際に、「スポーツは人種を越えて、人と人をコネクトできる数少ない機会であり、そこにNIKEは貢献すると社員に語りかけている」という言葉が印象的でした。
コロナ禍ということもありますが、今後自律型人材を増やしていくとなれば、企業として「選ばれる存在」になる必要があります。その意味でも、自社の存在意義をしっかりと発信して、それに共感する人材が集まる環境を整えるべきでしょう。