OPINION1 活用の鍵は心理的安全性の向上 オンラインコミュニケーションがもたらす進化2つの方向性 川崎祐史氏 三菱総合研究所 先進技術センター
コロナ禍で利用が広がったオンラインコミュニケーションツールは、
今後のコミュニケーションの変化とともにどのように進化していくだろうか。
先進技術が人の価値観・行動にどう影響を与えるか、未来社会の姿について研究している三菱総合研究所先進技術センターの川崎祐史氏に、今後の企業におけるオンラインコミュニケーションの在り方について聞いた。
リアルとデジタルを融合したハイブリッド化が進む
「オンラインコミュニケーションには、目線が合わない、タイミングがずれる、空間的な位置関係がはっきりしないなど、対面でのリアルなコミュニケーションよりも明らかに劣る部分があります。ただ、対話の目的や内容によっては、オンラインの方が良かったり、オンラインでも問題がないケースも多いと思います」
三菱総合研究所の川崎祐史氏がこう話すように、コロナ禍によりテレワークを導入した企業で働く人は、オンラインコミュニケーションの恩恵を享受してきた。
たとえば、多くの会社員がテレワークの導入で実感しているのは、通勤にかかっていた往復時間を有効活用できるという点だろう。また、オフィスにいると雑音があったり声をかけられたりと集中しにくいが、1人だと仕事がはかどると感じた人も多いはずだ。
営業活動でいえば、一定の信頼関係ができている顧客との間であれば、従来は月に1度だった訪問を、月に2~3回のビデオ会議で会話の頻度を高め、逆に訪問は3カ月に1度で済ませるといったことも可能だ。
「このようなメリットを踏まえると、ポストコロナ社会もコミュニケーション機会の約3割はオンラインに移行したまま残るのではないかと考えています。リアルがオンラインに移行するだけでなく、リアルをサポートするためにオンラインコミュニケーションが付加される場合もあるでしょう。このような形で、今後の企業におけるコミュニケーションは、リアルとデジタルが融合したハイブリッドなコミュニケーションに変わっていくのではないかと思います」(川崎氏、以下同)
ハイブリッド化が進むコミュニケーション領域とは
企業活動には様々なコミュニケーション・シーンがある。それらを川崎氏がコミュニケーションの目的(横軸)とコミュニケーションの定型度(縦軸)という2つの尺度でマッピングしたのが図1だ。
横軸はコミュニケーションの目的である。左側にいくほど、情報の伝達や認識の共有など、論理的な理解を目的としたコミュニケーションになる。逆に右側にいくほど、相手に対して何らかの感情を想起させたり、共感を得るなど、感情的な理解を目的としたコミュニケーションになる。そして、中央の合意形成は、論理・感情の両方の要素を含んだコミュニケーションとして位置づけられている。
縦軸が示す定型度が高いのは、毎回似たような話題について話しあうケースである。この場合、すでに共有された情報を背景として、あまり多くを語らなくてもコミュニケーションが成立するため、自然と定型的な発言になる。逆に定型度が低いのは、相手と初めて話しあうような話題の場合だ。事前に共有している情報が少ないので、丁寧な会話が必要になる。
「左上の象限に当たる、論理的理解を目的とした定型度の高いコミュニケーションは、AI(人工知能)が対応しやすく省人化・自動化が進みやすい領域です。たとえば、すでにテキストベースの情報はAIを用いたチャットボットのような形に置き換わりつつあります。今後、音声認識の精度が高まれば、音声情報でもAIが人に代わっていく部分は増えていくでしょう。
逆に右下の象限に当たる、感情的理解を目的とした定型度の低いコミュニケーションについては、リアルなコミュニケーションが不可欠です。AIに何か言われて『うれしい』と感じる人はあまりいませんよね。
そして両者の中間に位置する領域において、オンラインとリアルのハイブリッド化が進むと考えています」