新潮流コラム 2 U理論 「出現する未来」から学ぶU理論で組織を変える
今、企業に組織活性化が求められる理由は何か?『 U理論』の翻訳で知られる中土井僚氏は、誰も解がわからない時代、幅広くステークホルダーを巻き込みながら、対話をしていくことが重要だと語る。みんなが自身の心の深いレベルに立って対話ができた時、深い一体感が生まれ、予想だにしなかったインスピレーショナルなアイデアが生まれる。それに従って、未来へと進むことで組織がレベルアップする。
日本企業の多くの組織で“関係性の危機”が進行中
組織の活性化が必要となる理由として、一般的な考え方は次のようなものではないだろうか。
「社員一人ひとりの価値観の多様化や、それに伴う世代間ギャップなどによるコミュニケーションの不足が、組織の活性化を阻む大きな原因となっている。何らかの施策によってコミュニケーションを増やせば、メンバー間の一体感や社員が生き生きと働けるような職場風土が手に入り、結果的に組織は活性化する」
こうした認識を持っている人たちに向けて、『U理論』の翻訳家であり、実践のためのファシリテーターでもある中土井氏は警鐘を鳴らす。「現在の日本企業における人々の関係性の悪化は、もはやコミュニケーションを増やせば解決できるようなレベルにはなく、事業上の破綻にまで結びつくような危機的状況を迎えているケースも少なくありません」
こうした関係性の危機を中土井氏は、リレーションシップ・クライシス(以下、RC)と呼ぶ。これは、どのように起こるのか? その背景としてまず考えられるのが、少子高齢化による市場縮小や熾烈なグローバル競争に代表される厳しい経営環境だ。「どの企業も、業績を上げることが非常に難しくなっています。行動量を増やせば業績が確保できた時代と違い、多様でかつ変化の速い顧客のニーズを掴む提案をしなければならず、そのためのスキルも高度化している。その場合、上司による適切な指導・育成が欠かせませんが、近年マネジャー層のプレイングマネジャー化が進み、“これまで自分が暗黙知でやってきたことを、形式知化して部下に伝える”といったきめ細かいマネジメントはできておらず、部下のスキルレベルは上がりづらくなっているといえるでしょう。そもそも過去の成功体験が通用しないので、上司が教えられないことも多くなっているはずです」
さらに、業績の低迷は経営陣のリーダーシップにも影響を与える。これまでは数値目標を掲げ、数字で社員を統率する単純なマネジメントでよかった。しかし数値目標の達成が難しくなってきている現在、理念やビジョンに対する共感などによって社員の一体感をつくらねばまとまらなくなっている。組織統率の難易度は急激にアップしているのだ。「人間関係上の問題は、昔からありました。ですが業績が上がっていた時代は、“いろいろ苦しかったけど、社員旅行で発散しましょう!”といった具合に、ほとんどの問題を帳消しにできました。ところが業績が下がってくると、“なぜ下がっているのか?”という話をせざるを得ない状態になるのです。
業績の悪化は、前述の通り経営環境の変化を発端とする複雑な問題が絡み合って起きていて、理由はひとつに特定できません。そうすると議論をしても、“社長のリーダーシップ不足のせいだ”“製品が時代遅れ”“営業力不足だ”など、全員がそれぞれの立場で原因をいうことができる。一向に結論が出ないわけです。これで5年過ぎたという組織もよく目にします。やがて犯人探しや、責任の押しつけ合いが始まり、負のループが出来上がります。噛み合わない組織では、時間の経過と共に、やがて事業そのものが立ち行かなくなるのです」