第5回 指揮者のいないオーケストラ(後編) 中原 淳氏 立教大学 経営学部 教授
全員がリーダーシップを発揮しなければならない楽団、TAO。
メンバー同士で語り合い、合意形成しながら質の高い音楽を紡ぎ出す秘密を探りました。
意見をぶつけあい音楽を構築していく
東京アカデミーオーケストラ(TAO)は、1991年に結成された室内オーケストラ楽団です。団員は約30名。全員が他に仕事をもつアマチュア楽団ながら、年2回のコンサートを欠かさず開催、活動歴は今年で28年目を迎えます。
TAOの最大の特徴は「指揮者がいない」こと。指揮者のリーダーシップに委ねるのではなく、メンバー同士で率直に意見を交わし、合意をつくりながら音楽をつくりあげていくのだといいます。後編では、指揮者のいないオーケストラ演奏を完成させるプロセスについて、田口輝雄さん(団長、コントラバス)、室住淳一さん(広報、クラリネット)、益本貴史さん(コンサートマスター、ヴァイオリン)にお話をうかがいました。
練習の質を左右するファシリテーターの存在
中原:
毎年春、秋に定期公演を行っていますが、いったいどうやって練習しているのですか? みなさん、お仕事や家庭があるとのことですが。
室住:
定期公演までに、10回の合奏練習をして仕上げるようにしています。曲が決まったら、楽譜を配布。パート練習は各自で行います。合奏練習は週に一度、日曜日に3時間。1曲あたり1時間やります。
中原:
練習するにもプランニングが必要ですよね。指揮者がいない状況で、だれが計画を立てるのですか?
益本:
曲ごとにコンマス(コンサートマスター)が変わるのですが、それぞれ担当のコンマスが曲全体のグランドデザインから練習の計画立案までを行います。何しろ10回しか練習できないので、いつまでにどの程度の仕上がりを目標にするか、そのために今日はどこまでやるかなどをしっかりマネジメントしないと本番に間に合いません。コンマスがどれだけ準備して臨んでいるかが、練習のクオリティを大きく左右します。
中原:
うーん、練習計画だけでなく、曲のグランドデザインまで考えなければならないとなると、コンマスの責任は重大ですね。
益本:
我々も正規の音楽教育を受けているわけではないので、そこは難しいところですね。とはいえ「きちんと演奏したい」という思いはありますので、志賀信雄先生(国立音楽大学招聘教授)に総合アドバイザーとして2、3回ほど練習に来ていただき、プロとしての助言を求めるようにしています。また、新しい曲などは一から指導を受けたりもしています。
中原:
練習中はどんなことを議論されるのですか? 音楽って、人によって好みが分かれるものでしょう。
益本:
音楽性を議論するというのは想像がつきにくいかと思いますが、単に好みを語りあうわけじゃないんです。逆にいうと、全員の好みが一緒ということはありえないので、コンセプトやグランドデザインが必要になります。それに共感できれば、「じゃあ、今回はそれで行こう」とコンセンサスができるというわけです。