子どもの教育から見る未来 一人ひとりの価値を上げる! “やる気エンジン”の回し方
「一人ひとりの“価値提供力”を上げれば、人口減少による生産性の低下をカバーできる」こう話すのは子育て、アドラー心理学に詳しい熊野英一氏だ。
未来への希望が湧く子育て支援対策とは。
そして、子どもや若者のやる気を高める方法とは――
予測不能な時代が始まった
―未来の企業を取り巻く状況は、どのようになっていると思われますか。
熊野
未来を予測する際、よく使われてきたフレームワークに“STEEP”という分析方法があります。Society(社会)、Technology(技術)、Economics(経済)、Environment(環境)、Politics(政治)という5つの要因を基に、企業を取り巻く外部環境がどうなっていくか、当たりをつける、というものです。
ところが現代は、IT 技術を筆頭に全ての要因の変化のスピードが速まっています。もはや十数年先を予測することは不可能な時代といえるでしょう。
唯一、予測可能なのが人口の変動です。日本では既に総人口、労働力人口、共にピークを迎え、今後も減り続ける見込みです。2030 年には企業の労働力不足はかなり深刻化しているでしょう。
―少子化対策は国の重要課題ですが、企業としてはどんな対策を立てればよいでしょうか。海外の事例から学べることはありますか。
熊野
他国の施策は、社会的な背景、教育制度などが日本と違い過ぎるので、成功した対策を真似してもうまくいかないと思っています。それよりも、日本国内で成果を上げている施策に着目したほうが現実的ですし、効果が期待できるでしょう。
有望な取り組みのひとつが、国が進める「企業主導型保育事業」です。従来の企業内保育所と違い、複数の会社が共同して1つの保育所を持つこともできる仕組みで、中小企業でも設けることが可能です。認可施設並みの国の助成金が用意されているうえ、設置や運営のルールが柔軟なのが魅力。会社の会議室を使う、社宅の一部を改築する、工場の空きスペースを活用するなど、各企業がそれぞれやりやすいスタイルで設置できます。
社会的なインフラとして保育所がたくさんできれば、女性の復職がスムーズになりますし、「それなら、もう1人子どもをつくろう」と思える若者が増えるかもしれません。今後の労働力不足の問題に、ダイレクトにインパクトをもたらす施策だと思います。
―とはいえ、これから生まれてくる子どもたちが労働力となるまではかなり時間がかかります。人手不足を解消するため、2030年に向けて私たちは何をすべきなのでしょうか。
熊野
労働力人口が減少する時代においても一筋の光明はあると、私は考えています。それは働く人一人ひとりのパフォーマンスを上げ、各々の“価値提供力”を高めること。これが実現すれば、人口減少による生産性の低下や経済成長の縮小をある程度カバーすることが可能です。