講演録② HRカンファレンス2020秋レポート 平松浩樹氏 岡部雅仁氏 高倉千春氏 永島寛之氏 服部泰宏氏
2020年11月17日~20日、25日の5日間にわたり開催された、「日本の人事部」主催のカンファレンス。
春に続き、全日程オンライン開催となったが、早々に受付終了する講演が続出するなど、盛況振りがうかがえた。
小誌では特に人気が高かった2講演のダイジェストを紹介する。
国内大手企業でも先行してジョブ型人事に着手した富士通。報酬制度やキャリア構築のしくみから、全社的なシステム改革まで、総務・人事本部長が現在までの取り組みを紹介。変革を支援するコーン・フェリーが日本企業への示唆を解説する。
7割が導入を検討している
岡部
ジョブ型人事は最近、もっともホットなトピックですが、制度としての長所と短所が両方あります。半年前の調査では、1,000人~1万人と1万人以上の企業の7割はジョブ型人事を導入、もしくは導入を検討中でした。年功的なやり方にひずみができているのです。
ジョブ型人事を進める課題でもっとも多かった回答は「経営陣や現場責任者の理解不足」です。メンバーシップ型からのフルモデルチェンジに近く、人事部だけで推し進めるのは難しいでしょう。経営陣や現場がメリット、デメリットを理解し、必要なコミュニケーションやリーダーシップをとれるかが鍵です。
人が起点のメンバーシップ型に比べ、ジョブ型は仕事が起点で、事業・組織戦略との接合性も高くなります。戦略に応じて組織をつくり、そのためのジョブがあり、最適な人材を充てる。ジョブのサイズが同等なら転職してもある程度、一定の市場価値に基づく報酬が払われます。長らくメンバーシップ型だった日本企業には、ジョブ型のノウハウや人材、方法論がありません。ジョブをいかに定義し、タレントマネジメントと連動するか。また、ジョブディスクリプションは、導入と運用の2段階で設計する必要があります。
成果主義の反省から、ありたい姿を議論
平松
当社は単体で3万2,000人、グループ会社を含め、国内8万人、グローバルでは13万人を抱えています。
ジョブ型転換への契機は、2019年6月の社長交代で「IT企業からDX企業への変革」を掲げたことです。「DX企業への変革には会社のカルチャーを変える姿勢が必要だ。ジョブ型にしたい」というトップの強いコミットメントと人事への期待が後押しとなり、改革を始めました。
同年7月に「イノベーションによって世界をより持続可能にしていくこと」とパーパスを変え、中長期的な戦略テーマから各組織の具体的戦略をつくりました。同時並行して、社内DX 推進プロジェクト「フジトラ」のDX オフィサー15名を中心に、人事制度改革と社内のシステム変革を進めました。
当社は1993年、成果主義と目標管理を同業他社に先駆けて導入し、数年間実施しましたが、結果的にうまくいかず、成果主義の失敗例として知られています。「激しいグローバル競争で、評価制度もグローバルスタンダードに」と成果主義を強く押しましたが、今思えば、ビジネスに応じた組織やカルチャーをつくるという発信が足りなかったと反省しています。
今回はパーパスの変更にともない、人や組織の「ありたい姿」から議論しました。DXカンパニーとして多様・多才な人材がグローバルに協働し、その先にイノベーションやDXの実践がある。全社員が常に学び、成長し続け、自律的に魅力的な仕事へ挑戦する。そんな企業風土をグローバル・グループワイドな人事基盤で支える姿をまず考えました。
半分は昇給し、半分は降給に
平松
人事制度改革では、スピード感と全体の整合性を意識しました。「ジョブ型人事制度へのフルモデルチェンジ」のポイントは次の4点です。
自ら重い職責、グレードの高いポジションを狙い、職責に応じて報酬が変わる「チャレンジを後押しする報酬制」。戦略から組織を追求し、人を集める「事業戦略に基づいた組織デザイン」。人員計画やキャリア採用の権限を現場へ委譲する「事業部門起点の人材リソースマネジメント」。最後は「自律的な学び/成長の支援」です。
今回の改革では、国内グループ会社を含めて1万5,000人の管理職を格付けし、職責で報酬を定額制にしました。したがって、半分は昇給し、半分が降給となりました。降給対象者には経過措置を設け、1年めが現状維持、2〜3年めに各5%減、4年めに本来の給与となります。その間、「ポスティングでより上位のポジションに挙手して合格すれば、その報酬を適用する」と挑戦を促しました。
評価制度は見直し中です。本部長クラス以上の上級幹部は、バランススコアカードを使い、財務指標、KPI、行動指標をグローバルに共通の評価指標としました。今後、さらに下位の幹部社員の評価基準のグローバル共通化も検討中です。