気づきのトピックス 講演録 「ジョブ型人事制度のポイント」オンラインセミナー 加藤守和氏 柴田 彰氏 コーン・フェリー・ジャパン株式会社
年功序列型の人事制度からの脱却を標榜する日本企業が増えているなか、コロナ禍によるテレワーク拡大という要素も相まって熱を帯びているのがジョブ型人事制度の議論だ。
日本企業が導入するにあたっての課題や今後の展望について、『ジョブ型人事制度の教科書』(JMAM)の著者による「ジョブ型人事制度の知っておきたいポイントを押さえる」オンラインセミナーの様子を紹介する。
3度目のブームとなる ジョブ型人事制度
日本におけるジョブ型人事制度の機運の高まりは、今回で3度目となります。最初のブームは2000年前後に起こりました。成果主義が広がるなか「職能から職務(ジョブ)へ」という考え方の転換が提唱され、様々な企業が模索しました。次のブームは2010年から2015年ごろです。企業経営のグローバル化によってグレーディングを世界標準に合わせるニーズが高まり、そのなかでジョブ型が論じられました。
そして現在、事業環境の変化への対応、同一労働同一賃金の要請、コロナ禍によるテレワークの拡大、高齢化社会の進展や海外経験のある経営人材の増加などの要因が複雑に絡みあい、第3次ジョブ型ブームを迎えています。弊社が昨年行った実態調査によると、現在、大手企業の7割近くがジョブ型人事制度を導入済み、あるいは導入検討中という結果でした。
「ジョブ型」とは雇用の話ではない
ジョブ型人事制度を議論するには、まずは欧米型のジョブ型雇用と日本のメンバーシップ型雇用慣行はどう違うのかをきちんと理解し、日本に合う形を選択する必要があるでしょう。メンバーシップ型雇用とは入社する前に「何の仕事をするか(職務)」への合意なき雇用のことです。一方、ジョブ型雇用は「必要な職務に対して職務ベースで合意した」雇用のことです。
この雇用のしくみはジョブセキュリティー(雇用の保全性)にも大きく影響します。職務への合意なき雇用であるメンバーシップ型雇用の場合、仕事がなくなったからといって雇用解消とはなりません。他方、ジョブ型雇用の場合は解消となります。
日本のメンバーシップ型雇用は、人事のしくみの様々なものに影響を与えており、「ゼネラリスト育成」と「定年制度」が大きくは挙げられます。未経験者に対し、適性把握の目的で行われるジョブローテーションが、ゼネラリスト育成につながります。
また、メンバーシップ型雇用では社会通念として、雇用の保全性が高くなければなりませんが、保全性を保つためには代謝システムも必要です。そこで生まれたのが年齢をトリガーとして雇用を解消する「定年制度」です。意外に思われるかもしれませんが、世界的にみて定年制度がある国は少数派です。たとえばアメリカの場合、年齢によって雇用の要否を判断することは差別的であり、定年制を設けること自体が憲法違反です。EU圏も国によって多少違いはありますが、年齢によって職を奪うことは基本的には認められていません。
出口に定年制度があり、毎年必ず誰かが抜けていく日本では、効率性の観点からある程度の規模感をもって採用できる新卒一括採用をやめることは難しいでしょう。このサイクルがある限り、日本企業はメンバーシップ型雇用、ゼネラリスト育成、定年制の3点セットを手放すことはできません。実は、日本企業で議論されている「ジョブ型」とは、雇用の話ではないのです。
日本企業が目指すべきジョブ型の形とは
では日本企業は何を「ジョブ型」にしようとしているのでしょうか。
雇用というインフラのうえには「人材マネジメント」があります(図1)。「人材マネジメント」を仕事の進め方と処遇(お金)という2つの視点で考えてみます。
まず、仕事の進め方については、従来の日本企業の一般的なマネジメントスタイルは、上司と部下との緊密な報連相を通じてヒトをみることで、仕事の割り振りやマネジメントをするというものでした。しかし、コロナ禍でのテレワーク拡大を機に、職務で仕事を割り振り任せていくマネジメントに変えていかざるを得ませんでした。ここから「仕事の進め方を職務ベースにするべきだ」という論調が出てきたのです。
また、処遇についても、いままでは人の能力にお金が付随していましたが、それでは人件費が高ぶれしてしまいます。職務と処遇を結びつけ、どれだけ会社に貢献したかによって給料を支払う方がフェアではないかと言われ始めたのです。
いま日本では、雇用、仕事の進め方、処遇のどの部分をジョブ型にするのか、混在して語られていることが多い状況です。しかし、基本的な構図は図2を目指されている企業が大半であると思います。つまり、入り口はメンバーシップ型雇用で、ある一定期間は職能資格制度を続けるけれども、それ以降は職務を明確に、処遇も貢献によって決まるジョブ型人事制度にしていく、つまり、職務をジョブ型に紐づけていくというものです。