セミナーレポート PR Tableオンラインイベント ナラティブ×HRを紐解く ~優秀な人材を惹きつけるナラティブ時代の採用戦略~ 本田哲也氏 本田事務所 代表取締役/PRストラテジスト 他
採用市場において、待遇や条件だけでなく、「やりがい」や「志」などで企業を選ぶ傾向が強まるなか、改めて「ナラティブ」に注目が集まっている。2022年4月13日に開催されたナラティブ× HRのイベント(主催:PR Table)には、本誌2022年1-2月号のトレンドキーワード特集で「ナラティブ」を解説いただいた本田哲也氏が登壇。100年に一度のモビリティ変革の時代において採用ブランディングにおける新しい手法を多数実践しているトヨタ自動車人事部の山口勇気氏・千々岩真志氏とともに「ナラティブ時代の採用戦略」に迫った。(文中敬称略)
企業と生活者が“共に紡ぐ”物語
本田
本日は人事担当者の方に多くご視聴いただいていますので、最初に「ナラティブ」の前提について簡単にご説明します。
ナラティブは昨今、ビジネス領域で注目されており、世界的な経済学分野でも新たなキーワードとなっています。たとえば行動経済学の分野でも、経済事象の背後には「ナラティブ力」が作用していることがノーベル経済学賞受賞者でもあるロバート・シラー教授の著書『Narrative Economics』でも示唆されています。
辞書でナラティブを調べてみると、「物語・朗読による物語文学。叙述すること。語り口。(『デジタル大辞泉』より)」とありますが、これを私自身は「物語的な共創構造」、すなわち、「企業と生活者が“共に紡ぐ”物語」であると定義しています。
3つのポイントから見る「ストーリー」との違い本田
では、「『ストーリー』とは何が違うのか?」との疑問を持たれる方もいるでしょう。実は、ナラティブとストーリーの違いについては、いまのところ明確な定義は存在しません。どちらにも共通するのは、起点が「創始者や企業の強い想い」であること、そして企業の社会的存在意義である「パーパス」によって物語が紡がれていることです。
そこで、より解像度を高めて、3つのポイント(図1)から両者の違いを整理してみます。
1つめは「演者」の違いです。「コーポレートストーリー」や「ブランドストーリー」など、「企業」を主語とした一方通行になりがちなストーリーに対し、「企業」以外のステークホルダー(従業員、ユーザー、顧客、株主など)も演者として物語に参加するのがナラティブです。つまり、ストーリーが「我々の物語」であるとすれば、ナラティブでは「皆さんの物語」といったように、ある種の“主役の交代”が生じることとなります。
2つめは「時間」の違いです。ストーリーのフォーマットは起承転結。つまり、「始まり」と「終わり」があります。一方のナラティブは、「現在進行形」で、ずっと続いていく概念であることから、「始まり」はありますが、未来も包含するため、基本的には“ネバーエンディング”なものです。
3つめは「舞台」の違いです。ストーリーは企業が属する業界や競合環境を舞台として描かれますが、ナラティブでは「社会全体」が舞台であり、世の中という視点で描かれるため、SDGsなどの観点からも極めて今日的であるといえるでしょう。