第4回 “従業員の経験”という価値 人事の新しい命題 「EX」 高柳圭介氏 EYストラテジー・アンド・コンサルティング ピープル・アドバイザリー・サービス シニアマネジャー
いまこそ注目したい組織、人事領域のBuzzword。
第4回めではエンプロイーエクスペリエンス(以下、EX)に焦点を当て、その向上のための人事の役割について解説します。
EXが“バズった”背景
EX という言葉が日本の人事業界で認知され始めたのは2015年ごろ。様々なHR 関連カンファレンスや業界誌で取り上げられました。当時、Airbnb社が人事部門の名称を「エンプロイーエクスペリエンスチーム」に変更し、そのトップをCEEO(Chief Employee Experience Officer)と呼称したことも大きな話題となりました。「会社を中心に置き、人材を1つの経営資源ととらえる考え方」から、「人材(従業員)を中心に置いた考え方」への変革は、人事部門の役割や在り方そのものにも大きな影響を与えています。
現在、日本は急速な少子高齢化の真っ只中におり、労働人口の減少と、それに伴うタレントウォー(人材獲得競争)の到来は避けられない状況です。また、1980年代以降に生まれた「ミレニアル世代」が、組織の中核を担う年齢層になるにつれ、働き手の労働観も大きく変化してきました。
従来の新卒一括採用・終身雇用の時代はもはや終わろうとしています個々人が自らのキャリアを実現するために、その受け皿としてもっとも適した企業を探す時代が到来しつつあるのです。従業員の帰属意識を高め、離職率を最小化するにはどうしたらよいのか――。企業はいま、真剣に考え始めています。その1つの答えとしてEXが注目されるようになったわけです。
EXとEEの深い関係
本題に入る前に、もう1点だけ説明しておかなければならないことがあります。それは「エンプロイーエクスペリエンス(EX)」と「エンプロイーエンゲージメント(EE)」という混同しがちな2つの言葉の関連性についてです。
エンプロイーエンゲージメントとは「従業員一人ひとりが所属する組織の目標達成に向けて能動的・主体的に貢献しようとする感情」を意味します。当然、エンプロイーエンゲージメントが高ければ高いほど、業績に良いインパクトがあるはずです。
2017年にリンクアンドモチベーション社と慶應義塾大学ビジネススクールが実施した共同調査「エンゲージメントと企業業績」のなかで、エンゲージメントがDランク以下の企業では、売上伸長率が4.2%だったのに対し、Bランク以上では19.8%に上った、という調査結果が示されています。
EXを高めることでエンプロイーエンゲージメントが高まり、エンプロイーエンゲージメントが高まることで個人業績が上がる。それが顧客満足につながり、最終的には組織としての業績が上がって、優秀な働き手を惹きつける魅力的な会社になるということです(図1)。「風が吹けば桶屋が儲かる」のような話ですが、EXがこの連鎖反応の起点になっているのは間違いありません。