HR TREND KEYWORD 2021│人事│カルチャーモデル カルチャーを意図的につくり、強い組織へと導く設計図 唐澤俊輔氏 Almoha LLC, Co-Founder COO
コロナ禍は「変化への対応力」を企業に問う結果となった。
変化に強い組織の特徴は何か―。
取材を重ねるなかで見えてきたのが「カルチャー」の存在である。
カルチャーとはどのように生まれ、どう影響するのか。
組織開発やカルチャー醸成の支援に取り組む唐澤俊輔氏に聞いた。
リモートワークの広がりとともにコミュニケーションがとりにくくなり、組織としてどのようにベクトルを合わせていくのかが課題になっている。そうした流れのなかで注目を集めているのが、組織を貫く「カルチャー」の存在だ。『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』の著者であり、複数の企業で組織文化づくりに携わってきた唐澤俊輔氏は次のようにカルチャーを定義する。
「どの企業も、根底には自分たちが大切にしているものがあり、それと連動する形で採用や福利厚生といった人事制度の運用を行っています。単に根底にある理念だけを指すのではなく、組織のあらゆる活動をとおして積み上がったものが“カルチャー”なのです」(唐澤氏、以下同)
カルチャーは意図してつくるもの
カルチャーは企業活動の積み上げで醸成されるものだと聞くと、コントロールできないものだと考える人もいるだろう。しかし、それは勘違いであり、その勘違いが企業に不幸をもたらすケースもある。
「カルチャーは自然にできあがるものととらえて意図的につくる取り組みをしないと、思いもつかない悪い組織風土が根づく恐れがあります。たとえば上の人にものを言いにくいカルチャーができてしまえば、事故が起きてもすぐに報告しなかったり、業績の数字を改ざんして上にあげたりという事態を招きかねない。東芝の不適切会計はまさにこうしたカルチャーが温床になっていました」
カルチャーの設計を放棄してダメージを受けるのは企業だけではない。組織で働く人も疲弊して離職につながる場合がある。
「フラットなカルチャーだと聞いて入社したのに、実際はヒエラルキーの強い組織だったとしたら、その人にとってはストレスのある職場環境でしょう。企業があえてウソをついたなら論外ですが、企業自身はフラットと思っていても、現場は違っていたというケースが少なくありません。後者のようなギャップができるのは、カルチャーを可視化して全社で共有できていないからです」
ジョブ型雇用にも欠かせない
企業が先手を打ってカルチャーづくりをする必要性は、ニューノーマルの時代においてますます高まっている。コロナ禍をきっかけに広がったリモートワークだが、多様な働き方にも対応できる一方で、弊害もある。唐澤氏は次のように指摘する。
「1カ所に集まって仕事をしているときは、お互いに雑談をしたり、向こうで話している人の会話が漏れ聞こえたりして、その会社の空気感をなんとなく把握することができました。
しかし、リモートではその空気感を感じることができません。その結果、それまで暗黙の了解で進んでいたものについてもきちんと説明することが求められるようになります。この説明に要する手間や時間が、組織全体の生産性を落としてしまう。何か意思決定する際にも、前提の議論に時間を取られて先に進まないという事態が多発するでしょう」
そこで重要になるのがカルチャーの存在だ。
「たとえば『お客様第一』というカルチャーが可視化されて浸透していたら、意思決定の際に『それは、コストがかかる』、『いや、従業員満足度が……』と論点がズレていくこともないでしょう。リモートワークで空気感をつかみづらくても、同じ目的に向かった議論ができるはずです」