新しい学び│金融教育 従業員のウェルビーイングとエンゲージメント向上につながる金融教育 日下部 朋久氏 MUFG資産形成研究所長
先行する欧米企業に続き、日本でも金融教育に力を入れる企業が増えつつある。金融教育に取り組むことは、企業や従業員にとってどのような意義があるのか。また、どのような形で取り組めばいいのか。金融教育に詳しいMUFG資産形成研究所長の日下部朋久氏に聞いた。
[取材・文]=増田忠英 [写真]=MUFG資産形成研究所提供
個人・企業・国のそれぞれに必要とされている金融教育
2022年度から高校での授業がスタートするなど、国を挙げて金融教育が推進されている。その背景について、MUFG資産形成研究所長の日下部朋久氏は「個人・企業・国のそれぞれに金融教育のニーズがあるためです」と説明する。
まず個人にとっては、超高齢社会を乗り切るために、資産形成を推進することが喫緊の社会課題となっている。
「そのためには金融リテラシーの向上が必須であり、その向上策の1つとして金融教育が必要とされています。また、企業にとってもこのような社会課題の解決に積極的に関与することは、ESGの観点から責務となりつつあります。非財務情報開示の対象にも今後含まれていくと考えられるでしょう。そして、こうした企業の取り組みは、結果として企業業績、ひいては経済成長にまで広範な影響を期待されています。
さらに企業は、従業員のファイナンシャル(経済的な)ウェルビーイングやエンゲージメント向上につながることも期待しています。従業員サイドの金融教育のニーズも高まっており、従業員組合も金融教育に大きな関心を寄せています」(日下部氏、以下同)
そして国の動きとしては、首相が議長を務める「新しい資本主義実現会議」で取りまとめられ、閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」がある。この計画の重点事項の1つとして、国民一人ひとりの生活水準を引き上げるため、家計の預金が投資にも向かい、持続的な企業価値向上の恩恵が家計にも及ぶ好循環をつくり上げ、資産所得倍増を実現することが掲げられている。そのために、NISA・iDeCoの制度改正と合わせて、安定的な資産形成の重要性を浸透させていくための金融教育の充実を図ることを挙げている。
企業における金融教育の現状と金融リテラシーの海外との比較
では、企業における金融教育の現状はどうなっているのだろうか。
MUFG資産形成研究所が企業勤務者8,500人と公務員1,000人に行ったアンケート調査(図1)によれば、職場で「資産形成・ライフプラン・資産運用等に関する研修」が開催され、それに参加した割合は企業勤務者29.7%・公務員16.4%。開催されたが参加しなかった割合(企業勤務者16.6%・公務員16.4%)を足しても半数に満たない。それに対して「資産形成に関する研修等は開催されていない」という回答は企業勤務者36.4%、公務員39.9%ともっとも多く、金融教育が一般的になっているとは言い難い状況だ。
また、同研究所が調査している年代別の金融リテラシー(図2)の2017~21年度の推移を見ると、金融資産を比較的多く所有している60代以上は相対的に金融リテラシーが高い。また、この4年間で伸び率が21.3%ともっとも高いのが20代で、30~50代と変わらないレベルになっている。