OPINION3 パーソナリティを発揮して自分らしく働くために 意図しない差別に目を向ける LGBT 対応のための4つのポイント 増原裕子氏 明石市SDGs推進室 LGBTQ+/SOGIE施策担当LGBT コンサルタント/ LGBT アクティビティスト
障害者や外国人と並び、ダイバーシティを考えるうえで外せないのが、性的マイノリティである。
LGBT コンサルタントとして活躍する増原裕子氏は、「日本においては約9%が該当するが、そのうちの多くが自分の個性を抑圧しながら本来のパフォーマンスを発揮できていない可能性がある」と彼らの特性を組織力に活かすにはどのような工夫が必要なのか、話を聞いた。
知と知の融合のために不可欠な“多様性”
ダイバーシティというと属性の違いにとらわれがちだが、極論を言えば“一人ではない”時点でダイバーシティは生じている。たとえば同じ女性であっても、学校を卒業したばかりの若い人もいれば、小さな子どもがいて育児と仕事を両立している人もいる。さらに近い世代や境遇にある人同士でも、バックグラウンドや価値観、思考が完全に一致することはあり得ない。
本来のダイバーシティ経営とは、こうした個の違いを、組織の強みとして戦力に変えていこうという施策である。つまり性別や肌の色、身体的な障害といった目に見える違いだけではなく、経験や発達の特性、指向性の違いなど目に見えない違いにもフォーカスすることで、真のダイバーシティは実現するということだ。このとき、違いを受け入れること、つまり「インクルージョン(Inclusion)」はダイバーシティとセットであることが大前提だ。
なぜダイバーシティ&インクルージョンが必要なのか。大きな目的は、イノベーションの創発につなげることだ。戦後の日本は性別役割分業が明確だったこともあり、企業社会は健康的な男性が優位の画一的な集団を形成してきた。そうした構造的なしくみにより、経済発展を遂げてきた側面がある。しかし時代は変わり、企業が激しい国際競争で一歩抜け出すために、イノベーションが求められるようになった。イノベーションとは知と知の融合による化学反応であり、そのギャップが大きいほど、大きなうねりを生み出す。多様性なき組織に、イノベーションが起こることはないのである。
特に日本は、これから人口減少社会になる。労働力の確保もあわせると、単に“健康な日本人男性”だけの組織では立ち行かなくなることは明白だ。女性や外国人、障害者など様々な人たちが集まり、さらに一人ひとりの特性を丁寧に扱う組織運営が求められている。
個性を抑えざるを得なかった9%もの人たち
そしてここ数年、ダイバーシティ&インクルージョンの議論の俎上に上がることが増えたのが、LGBTをはじめとする性的マイノリティである。これまではダイバーシティ経営というと、女性活躍に傾倒していた部分があり、“男性と女性”といった二項対立での議論に終始しがちだった。けれどもそこにLGBT や障害者、外国人など複数の軸が加わることで、より多面的にダイバーシティ&インクルージョンを議論できるようになったことは、望ましい現象といえるだろう。
LGBTとは、Lesbian(レズビアン、女性の同性愛者)、Gay(ゲイ、男性の同性愛者)、Bisexua(l バイセクシュアル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー、性別越境者)の頭文字をとったもので、性的マイノリティの総称の1つである。ある調査によると、日本人におけるLGBT の割合は、8~9%程度だという。仮に300人程度の組織なら、25人前後が該当する。
しかし実際の職場では、これだけの性的マイノリティが存在しているとは、にわかに信じ難いという人もいるはずだ。なぜなら、自身がLGBT であることを公言(カミングアウト)している人の割合は、LGBT のうち4%にとどまるからだ。先の300人の組織を例にとれば、25人程度のうちの4%で、たった1人ということになる。カミングアウトは非常にセンシティブな行為であることが、おわかりいただけるだろう。
LGBT というのは生まれながらの特性であり、血液型や利き手の違いなどと大差ない。だが、表面上は違いが見えづらいだけに“存在しないもの”と見なされてきた。ただただ少数というだけで、自身のパーソナリティを抑圧せざるを得なかったのである。
意図しない差別に目を向ける
では、企業が戦力として性的マイノリティを受け入れるには、どのような対応が必要になるのか。4つのポイントに分けて解説したい。