OPINION2 「睡眠ログ」で意識改革を促す 部下に行うべき睡眠マネジメントとは 裵 英洙氏 医師/慶應義塾大学 特任教授/ハイズ 代表取締役 社長
「睡眠はリーダーにとって必須のビジネススキル」―。そう話すのは、医師の裵英洙(はいえいしゅ)氏。
リーダーはいかにビジネススキルとして睡眠をとらえ、さらに部下に睡眠の大切さを伝え、改善を促すべきなのか。裵氏に話を聞いた。
睡眠はビジネススキル
「ビジネスリーダーには3つのビジネススキルが必要です。業務をするうえで必要な『オペレーションスキル』、そして『フィジカルスキル』『メンタルスキル』です。睡眠は、フィジカルとメンタル両方のリカバリーに効く重要な要素ですから、特にリーダーにとってはマストのスキルです」
そう話すのは、医師で医療機関向け経営コンサルティング等を行うハイズ株式会社の代表取締役社長、裵英洙(はい えいしゅ)氏。ビジネスは長期戦なので、リーダーはこの3つの要素のバランスがとれた三位一体の状態でいなければならないという(図1)。
しかし、フィジカル・メンタルスキルは、オペレーションスキルと違い、体系的に学ぶ場がない。睡眠に関していうと、産業医等が必要性を訴えていても、それは健康や病気予防のためのアプローチであって、必須のビジネススキルという視点ではない。
「ビジネススキルの1つとして睡眠を考えるならば、率先して自身の睡眠を改善するのはもちろんのこと、自身のみならず、部下の睡眠改善に目を向けていくのがリーダーの役割ではないでしょうか」(裵氏、以下同)
習慣に介入する
フィジカルスキルやメンタルスキルは、短期的に身につけられるものではない。もちろん睡眠も同様であり、まずはその点をリーダーは認識した方がよいと裵氏は話す。
「短期的な教育資源の集中投下により身につくオペレーションスキルとは異なり、『習慣』に介入する必要があります。リーダーはまず睡眠の知識を身につけること。そして睡眠をビジネススキルにまで昇華させて、いかに客観的に教えられるかが重要です」
上司が「ゆっくり寝ろよ」「ぐっすり寝ろよ」などと言っても、解決にならない。そもそも、「ゆっくり」「ぐっすり」という形容詞は主観的であり、たとえばリーダーが「自分は睡眠時間5時間で平気」という自身の話をしても、参考にはならない。習慣そのものが主観的なものだからだ。
「習慣に介入するには、客観的な知識を得たうえで、ストーリーベースで部下と会話をしていくことです。なぜ寝ることが必要なのか、○○という目的のために寝た方がいい、寝ないとこんなふうにパフォーマンスが落ちることがある、という物語を伝え、部下の意識変革・行動変革につなげていかなければなりません。下手なリーダーは『なぜ』を伝えず、『早く寝なさい』というコンテンツだけを伝えてしまう。コミュニケーションにおいて、コンテンツとコンテキストの両輪は欠かせませんが、それは睡眠の重要性を伝える際にも同様です」