OPINION2 価値観の「決めつけ」「押しつけ」に目を向けよう アンコンシャス・バイアスは誰にでもある 大切なのは「気づこうとする」こと 守屋智敬氏 アンコンシャスバイアス研究所 代表理事/モリヤコンサルティング 代表取締役
「たいてい、〇〇だよね」「普通、〇〇だよね」。
知らず知らずのうちに、こんな言葉を使ってしまってはいないだろうか。
自分には「アンコンシャス・バイアス」(無意識の思い込みや偏ったものの見方)などない、と思うかもしれないが、自分が気づかないうちに、思考や言葉の節々に表れているものだ。
一人ひとりがイキイキ活躍することを目指す「ダイバーシティ」の阻害要因となり得る「アンコンシャス・バイアス」について、話を聞いた。
始まりはGoogle
Googleの検索ページのロゴが、著名人や歴史上の偉人の誕生日などにあわせて、特別なデザインに変更されることはご存知だろう。実は以前、この“記念日ロゴ”が物議を醸したことがある。「白人男性ばかりが紹介されている(女性や、白人以外の紹介が少ない)」というのだ。もとよりGoogle 社はダイバーシティの先進企業だ。しかし、自分たちは多様性を大切にしていたつもりが、無意識のうちに特定の人々を疎外し排斥していたのではないか――。同社はこの一件に気づきを得て、「アンコンシャス・バイアス」と名づけた社員教育活動をスタートさせる。これが、アンコンシャス・バイアスという言葉が、一躍注目されるきっかけとなった。
この言葉は日本でも2013年ごろから広がった。「無意識の思い込み」「無意識の偏ったものの見方」などと訳されて、各種メディアが取り上げるようになったが、これは決して新しい概念というわけではない。私自身は十数年前から特にリーダー層に向けて、その重要性を訴えてきた。研修講師として経営者から現場マネジャーまで様々なリーダーと接するなかで、かねてより気になる問題だったからだ。
というのも、多くのリーダーがダイバーシティ推進は大切だという。一人ひとりがイキイキと活躍できる組織づくりを目指しているともいう。ところが、いざ目の前の仕事を誰に任せるかとなると、「彼女は小さな子どもがいるから無理」「若い彼には荷が重い」「彼は前回失敗したから」と否定的な決めつけをしてしまう。無意識の思い込みにとらわれて、多様性をむしろ台無しにしてしまうリーダーが少なくないのだ。
その結果、メンバー個々の成長を阻害したり、メンバーからの信頼を損ねるといった状況が生まれ、チーム全体のパフォーマンスも低下しがちになる。悪いのは部下でも、会社でも、市場でもない。「リーダー自らの無意識にこそ、問題の要因があるのではないか」。私はずっと、そう考え続けてきた。そうした持論に新たな確信を与えてくれたのが、アンコンシャス・バイアスへの近年の社会的関心の高まりである。
アンコンシャス・バイアスとは
我々の脳には、過去の経験や見聞きしたことを「自分なりに解釈する」という機能が備わっている。たとえば、そんなつもりはなかったのに部下を傷つけてしまったり、メンバーのためによかれと思ってしたことが裏目に出たという経験はないだろうか。その要因は、自分も相手もそれぞれが「無意識のうちに偏ったものの見方」をしてしまっていて、互いの「自分なりの解釈」にズレが生じたからだ。これが「アンコンシャス・バイアス」の典型例といっていい。
その根源は“自己防衛心”にある。自分は正しい、悪くないと思いたい。こうした自己防衛心はある意味、人間の生存に欠かせない自然の摂理である。だから、アンコンシャス・バイアスは誰にでもあり、あること自体は決して問題ではない。
問題は、それに気づこうとしないことだ。誰にでもアンコンシャス・バイアスはあるということを、リーダー自らが認識すること。そして、まず自分自身の思い込みに気づいて対処することが、組織のダイバーシティ推進の鍵を握るといっていい。
ダイバーシティにおいて一番大切なのは、「一人ひとりがイキイキと活躍できる」ということだ。