経済学から見る未来 労働資源を大切に扱い “真のダイバーシティ”の実現へ
人口減少・少子高齢化が確実視される中、これからの企業はどうあるべきか。
慶應義塾大学の中島隆信教授が提言するのは、“真のダイバーシティ”の実現である。
そのヒントとなるのが、「比較優位」の考え方。
経済学的見地から見た、2030年に向けた見直しの方向性とは。
人口減少で厳しい業界
―経済学的観点から、2030 年の日本はどうなっているとお考えでしょうか。
中島
経済の状況は不確定要素が多く、予測が難しいのですが、その中で最も確実なのが人口の変化です。日本の、特に生産人口は、間違いなく減っていきます。少子高齢化が進み、最も人口ピラミッドが頭でっかちになるのは2060 年ごろ。2050 年ごろから坂道を転げ落ちるように人口減少・高齢化が加速しますので、2030 年はまだその手前の段階です。
とはいえ、現在と比べると、状況は相当悪化しています。働いて稼ぐ人よりその稼ぎに頼る人のほうが多くなる。今の生産性を維持する限り日本のGDPは減少していくので、今までのやり方では成り立ちません。
―早めに手を打つ必要がある。
中島
これから深刻になるのは、国内市場を対象とした産業です。サービス業、メディア、教育、医療、介護……。中でも特に問題なのが、医療や介護など、国の制度に依存していて、市場メカニズムが働きづらい業界です。医療は、高齢化の進展により、見かけ上のマーケットは拡大しますが、保険制度によって成り立っていますので、負担する人がどれだけいるかという問題があります。
そうした国の規制がある業界では、労働力不足の問題も生じます。
なお、経済学者は基本的には、「労働力不足は発生しない」と考えます。経済学的な市場メカニズムが働いてリソースが足りなくなれば価格が上がり、価格が上がれば、供給が増えると共に、リソースを使う側が大事に使おうとするからです。労働力の供給が減って相対的に需要超過になると、賃金が上がる。賃金が上がれば働こうとする人が増えると共に、企業が人件費を節約しようとして生産性を上げようというインセンティブが働くわけです。
ところが、規制のある業界では、報酬額が決まっていたりサービス価格が抑えられていたりするので、市場メカニズムが働きづらいのです。賃金が上がらなければ人材は集まりませんし、企業にも節約しようというインセンティブが働きにくく、「人手が足りない」と言いながら、慢性的な人手不足が解消されません。
―つまり、2030 年になっても問題なくやっていける産業と、そうでない産業に二極化していく。
中島
そうです。個々の企業で対応できる業界は「生産性を上げて高い賃金で人を雇う」、あるいは、「生産を海外にシフトして、利益を日本に持ってくる」といった対応をすればいいのですが。
ちなみに経済学には、経済成長に関する「収束理論」というものが存在します。世界経済の経験則として、おおむねどの国も発展途上の段階から経済成長の波に乗ると、次に高度成長期を迎え、その後は短期的な変動はあっても成長率を下げていきます。この理論からすると、中国はもう爆発的な成長はないでしょう。では、次はどこか。アフリカやアジアの一部の国が注目されていますが、潜在的成長力の高い国をいかに見つけるかが重要です。