OPINION1 差別をなくし公平性を高めるだけでは、イノベーションは生まれない 5つのステージで考える ダイバーシティを経営に活かすポイント 谷口真美氏 早稲田大学商学学術院 早稲田大学大学院商学研究科 教授
「ダイバーシティ」という言葉が世の中に定着して久しい。
しかし、ダイバーシティ研究の第一人者であり、経済産業省「新・ダイバーシティ経営企業100選プライム」の運営委員も務める谷口真美教授は、「多くの日本企業は、ダイバーシティのベネフィット(便益、恩恵)を活かしていない」と語る。
変革の時代を乗り切る“ 本当のダイバーシティ・マネジメント” とは―。
「表層」と「深層」2つのダイバーシティとは
ダイバーシティには、2つのタイプがある。1つは「表層のダイバーシティ」。性別、人種、年齢、肌の色といった、外観で判断しやすく、本人の意思で変えることのできない属性だ。
もう1つは、「深層のダイバーシティ」。職歴、スキル、パーソナリティ、考え方、仕事観、文化的背景など、外観から認識できないような個性やアイデンティティの違いである。
表層のダイバーシティの特定の属性が同じであっても、深層のダイバーシティは人によって異なる。たとえば同じ女性でも、どんな経験を積んできたか、どんなことを学習したか、どんなバックグラウンドがあり、どんな視点をもっているかといったことは、その人その人によって違う。
表層と深層では、企業の取り組み方法がそもそも異なる。表層の属性に対する取り組みは、その属性によって不利な状況に置かれているマイノリティに対して、差別・区別をなくし活躍を支援する。深層の属性に対する取り組みは、違いからベネフィットを得るための仕掛けをつくることだ。
日本では、2000年代まで、ダイバーシティといえば表層、特に女性活躍支援ととらえられていた。しかし、リーマンショック後、欧米を中心とするグローバル企業が選択と集中を進め事業売却を行い、その主な買い手であった日本企業が、クロスボーダーのM&A を盛んに行った。事業のグローバル化にともない、人種・国籍のダイバーシティに取り組む企業が増えた。
さらに近年は、障害者、LGBTはもちろん、経歴、中途採用、年齢、もっているスキルなど、表層・深層にわたって多様な属性を活かそうという考え方が広まってきた。デジタルトランスフォーメーションといったITの浸透が人々の生活を変え、パラダイムシフトが起きているなか、「多様な人材を活用しなければ生き残れない」という危機感をもつ企業が増えてきたことが背景にある。
深層のダイバーシティがイノベーションを生む
ではなぜ、表層だけでなく、深層のダイバーシティを活かすべきなのか。
表層のダイバーシティは、多くの場合、生まれもった属性であることから、大半の国がその属性で差別することを禁止している。これは倫理目的のダイバーシティ、つまり、組織のメンバーを多様化すること自体を目的とする「ダイバーシティのためのダイバーシティ」といえる。
一方、企業が深層のダイバーシティを進めるのは、ダイバーシティを実現すること自体が目的ではなく、ダイバーシティのプラスの面を経営に活かすことを狙っているためだ。