企業事例1 住友商事 「指導員制度」がつくる“教え合い”“学び合う”風土
住友商事では、約半世紀もの長きにわたって「教える・教えられる」という関係が脈々と受け継がれてきた。そうした関係性をつくっている代表的な取り組みが「指導員制度」である。同社では、指導員と呼ばれる先輩社員が入社1年目の社員につきっきりで、仕事の進め方から社員として持つべき価値観や組織の仕事文化に至るまでを徹底指導する。教える側はインセンティブがなくても皆、当たり前のように後輩を指導しているという、同社の若手社員育成の仕組みを紹介する。
住友商事が求める人材像
日本を代表する総合商社として名高い住友商事。全世界にグローバルネットワークを展開する同社は、長年培ってきた総合力を生かし、多角的な事業活動を展開している。
同社では、社員に対し、同社の「経営理念・行動指針」の理解をベースに次の2つの能力を求めてきた。
①明確なビジョンと強いコミットメントのもと各階層でリーダーシップがとれる力
②幅広い知見と高いスキルを有し、専門性を発揮する力
住友商事が社員に対して求めているこれら2つの力について、同社人事部の西條浩史氏はこう話す。「当社は商社という事業の特性上、同じ会社といえども部門ごとに専門性が大きく異なります。そうした中、コアなスキルとして全社的に強化すべきと考えているのがリーダーシップです。たとえば若手社員であれば、後輩指導、さらには上司を巻き込んでいくというリーダーシップが求められますし、自らをマネジメントする力もある意味でリーダーシップにつながるものです。階層別に研修を用意して、強化しています」
同社がリーダーシップの強化を重視するに至った背景には、自立型人材を育てたいという思いがあったからだと西條氏はいう。「現在、当社の研修は、一部の階層別教育を除いて、“手挙げ式”が基本です。以前は、必須のカリキュラムを多数用意することで、社員の成長をサポートしてきました。ところが研修を充実させてから年月を経るごとに、成長する、何かを学び取るという研修の本来の目的よりも、試験に合格すること自体を目的にする傾向が強まってしまったのです。そこで“与えられる育成機会”から“、自ら学びとる成長機会”へと2011年から大きくシフト。リーダーシップに欠かせない主体性を学び取ってほしいという思いを表しました」
同社が変更したのは、研修制度だけではない。2006 年には、大幅に人事制度の見直しを実施。その大きな特徴が、入社10 年間を育成期間と位置づけたという点だ。「10 年間は、基本的に昇格昇給に関しては差をつけません。それに、ローテーションを意識的に実施することで、3つ程度の部署を経験できるようにしています。事業部ごとに求められる専門スキルが異なる当社では、人づくりにおいて現場でのOJT が大きな比重を占めています。事業部ごとに育成をすることを基本にしながら、人事主導のOff -JTがOJTを補完する。当社の人づくりは、OJTとOff -JTの両輪で成り立っているのです」
新入社員研修でも、人事主導のカリキュラムは7日間ほどだという同社。あとは、“社員が社員へ教えること”が育成のメインとなる。そうした同社のOJTを支える代表的な仕組みが「指導員制度」だ。
これは、指導員と呼ばれる先輩社員が、新入社員に対して仕事のイロハから社会人としての心得まで、業務をともにしながらマンツーマンで教え込むというものだ。