第11回 原動力は“人の力” 経営者の哲学を次世代に伝え続ける 薄井 光氏 花王 人財開発部門 智創部長
“よきモノづくり”を通じ環境や社会課題に挑む、日本有数の消費財メーカー・花王。
組織の原動力に“人”を挙げ、従業員のもち味を引き出すために“智創部”を設ける。
過去の経営者たちの思いを受け継ぎ、次世代につなげる同部トップの薄井光氏に話を聞いた。
経営陣の純粋な思いを伝えたい
花王は2017年、人財開発部門の教育・研修機能とカウンセリング機能を独立させ、「智創部」という新たな部署を立ち上げた。そのトップを務めるのが、智創部長の薄井光氏だ。薄井氏は、社長室で秘書を務め、当時の代表と行動をともにしていた経験をもつ。
「役員室には扉がなく、常に自由に出入りでき、社長も副社長も専務もフロア中央のテーブルに随時集い、侃々諤々と議論をしていました。彼らはよきモノづくりを通じた社会への貢献と、社員の幸せについて、実に純粋に本質的な議論をされていて、当時の自分には新鮮に感じました。時折、声高に熱気ある議論をしていたのが今でも印象に残っていますね」
だがトップの情熱、思いやその内容は、時に従業員にはそのまま伝わらず様々な解釈や誤解が生じることがある。
「経営陣の素顔を間近で見てきて、その本気度も痛いほど感じていました。ですから、どうすれば経営陣の思いや意志がクリアに社内中に伝わるか、今も試行錯誤の只中にあります」
柔らかい物腰でそう話す薄井氏の言葉一つひとつに、強い思いが宿る。「人」や「学び」と決して切り離されることのなかった、薄井氏のキャリアがそうさせているのかもしれない。
学生時代には教師になることを考えたこともあったが、企業人として就職活動を開始。ところが家族的で温かな雰囲気にも惹かれ入社した花王で、まさかの教職に就くことになる。入社5年目のころだ。
「モノづくりの現場の工場リーダーを早期育成するため、和歌山事業場内に企業内高等専修学校を設けていました。教員資格を有していたためか、そこで授業やクラス担当をすることになりました。生徒たちは、年の離れた兄貴のように接してくれました」
それから数年後、今度は茨城県の霞ヶ浦へ異動となる。新入社員研修から次世代経営者育成までを担う研修施設が新設されたためだ。