巻頭インタビュー 私の人材教育論 不確実な場での挑戦と “成長角度”が若手育成の鍵
テラモーターズは、ベトナムやインドなど、アジアを中心に電動(EV)バイクの開発・設計・販売を行う企業である。
「EVでイノベーションを興し、クリーンで持続可能な社会を創造する」をビジョンに掲げ、日本発のメガベンチャーをめざす徳重徹社長に、目標を実現するための人材育成論を聞いた。
6割OKならゴーの大胆さ
─大手損害保険会社を退職後、米国でMBAを取得、シリコンバレーでの起業を経てテラモーターズを設立されました。なぜ、電動バイク事業を選んだのですか。
徳重
「日本の技術でグローバルをめざす」という思いの実現に適した商品が、電動バイクだったからです。
アジアでは、バイクは主要な交通手段ですが、現地の人たちにとって、ガソリン代は決して安くありません。そのため、電池交換費用を含めてもガソリンよりランニングコストが少ない電動バイクの需要は大きいのですが、市場に出回っている中国製品は、品質に問題があります。そこで、ヤマハやホンダが築いた日本ブランドの信頼性を武器に電動バイクを販売すれば、大きな需要を取り込めると判断したのです。
しかも、電動バイクの部品点数は、ガソリンバイクに比べて少なく、組み立ても簡単なため、多くの専門技術者を抱えるガソリンバイクのメーカーはかえって安易に参入できません。つまり、日本の他のバイクメーカーと競合する心配もさほどないのです。さらに、電動バイクなら排気ガスが出ないため、大気汚染問題の解決に貢献できるという社会的な意義もあります。
このように、さまざまな観点で電動バイクの可能性を感じたことから、事業化を決めました。
─そうした状況下での経営で、重要になることとは。
徳重
一般的に、新規事業を始める場合、実績がない中で、資金・人材・パートナーをどう集め、それらをどう活かして事業を展開するか、また、いかにマーケットをつかむかが非常に重要です。
ただ、新しい事業では不確実な要素が多く、計画を立ててもその通りにはいきません。特に新興国が市場の場合、不確実性はさらに増すので、状況に応じて計画を軌道修正する柔軟さが求められます。しかも、新興国のビジネスは競争が激しいため、スピードも重要。「6割OKであればゴーサインを出す」といった大胆な判断が必要です。
─意思決定を急ぐと、リスクの見極めが甘くなりませんか。
徳重
新しいビジネスにはリスクはつきものなので、それを見積もることは当然重要ですが、ゼロにはできません。大切なことは、リスクをどう捉えるかでしょう。
日本企業の多くは、リスク=危険と考え、それを避けようとしてきました。一方、MBAのファイナンスでは、リスクは「ボラティリティ(変動幅)」とみなされ、そのコントロールの方法を教えています。
日本企業も、リスクを“危険”ではなく“変動幅”と捉えれば、新興国でのビジネスへの向き合い方も違ってくるのではないでしょうか。
日本で初めて量産型エアバッグを開発した元・ホンダ経営企画部長の小林三郎氏(中央大学大学院 客員教授)はその著書の中で、「今の日本の仕事の大半は、100回中99.9回成功しないといけないという発想で行われている」と述べ、挑戦しない組織からはイノベーションは生まれないことを指摘しています。
蛮勇さが足りない日本企業
─イノベーションには、リスクテイクが必要ということですね。
徳重
現在の日本の大企業は大胆に挑戦するよりも完璧を狙い過ぎてガラパゴス化(孤立化)してしまいましたが、かつては、日本の大企業の経営者にも、リスクを取って挑戦する人がいました。
例えば1977年、住友銀行(当時)の頭取に就任した磯田一郎氏は「“向こう傷”を恐れるな」という名文句を残しています。また、東芝の社長や経団連の会長を務めた土光敏夫氏の語録には「60点主義で即決せよ」という言葉があります。コンサルタントの大前研一氏も指摘する通り、今の日本の問題は、こうした“蛮勇”が足りないところにあるのではないでしょうか。