第1回 科学するファーマー・井出寿利さん IoTから生まれた美しきトマトたち 井出寿利氏 井出トマト農園 代表取締役|寺田佳子氏 インストラクショナルデザイナー
人は学べる。いくつになっても、どんな職業でも。
学びによって成長を遂げる人々の軌跡と奇跡を探ります。
井出トマト農園(神奈川県藤沢市)の代表取締役、井出寿利さんは代々、露地栽培をしてきた農家の15 代目。
全国農業コンクールで農林水産大臣賞を受賞するなどその取り組みに熱い注目が注がれる、若き農業経営者です。
彼が繰り広げるトマト作りのイノベーションとは。
01 15代目、“トマトや”を目指す
トマト農園にいると、なぜこんなに幸せな気持ちになるのだろう?
見上げるほどに伸びたトマトの木のたくましさには思わず「すごーい!」と目を見はるし、鮮やかな緑の間にオレンジの“ピッコラカナリア”や紫色の“トスカーナバイオレット”などのミニトマトが宝石のように輝いているのを見つけると「かわいい!」とささやいてしまうし、摘みたてのトマトを口に入れると「ん~、ジューシー!」と笑みがこぼれる。
ここは湘南・藤沢市の井出トマト農園。9棟のハウスで、大玉“桃太郎”からミニトマトまで13種類のトマトの栽培や加工品の製造をしている。
社長の井出寿利さんは代々、露地野菜を作ってきた農家の15代目。父の代で初めてトマト栽培に挑戦した。
「小さい頃からハウスに入って、両親が作業するのを見ながら遊んでいました。いわば、“トマトや”の英才教育ですね(笑)」
トマトと一緒に育っただけあって、「僕ね、幼稚園の卒園アルバムで『トマトやさんになる』って書いていたんです」
というから、ずいぶんと早い就活宣言である。
ところが、まっすぐに“トマトや”になったかというと、そうではない。
大学卒業後、なんと不動産営業の会社に就職したのである。
おや、また、なぜ営業の会社に?
「ウチのような農家は、栽培には熱心に取り組むのですが、収穫したものは農協に持っていくだけ。営業とはほど遠い経営だったんです」
親父と同じことをしていても親父を超えることはできない。何か新しいものを身につけなくては……。
そんな思いを胸に飛び込んだ営業職だったが、最初の3ヵ月は全く数字が残せなかった。モヤモヤした思いと焦る気持ちからか、お客さんの気持ちを考えずに強引に話を進めることもあった。
そんなある日、お客さんからクレームがきて、店長にこってり絞られ、ボロボロ泣いた。
「やっぱり営業なんて無理……」の涙でしたか?
「いえ、クレームの原因をはっきり指摘してもらって、スッキリしたうれしさで」