第9回 伝えきるコミュニケーションで信頼関係を築く 多様性を認め合いだれもが活躍できる環境をつくりたい 藁科 健一氏 ヤマハ発動機 人事総務本部 人事部長
昨年、ヤマハ発動機の人事部長に就任した藁科健一氏のキャリアのスタートは、鋳造技術のエンジニアだった。
異例の抜擢を経て人事のキャリアを歩む藁科氏に、その使命や仕事に対する思いを聞いた。
「人の心」に向き合う難しさを実感
大学で材料工学を専攻、自動車メーカーなどを経て、30代の初めにヤマハ発動機に中途入社した人事部長の藁科健一氏。新卒から一貫して鋳造技術のエンジニアとしてキャリアを積んできた藁科氏は、ヤマハ発動機にも鋳造技術者として入社した。ところが入社して5年半が過ぎたころ、労働組合の専従になる。
「それまでは鋳造技術のエンジニアとして理系人生を歩んできたので、全く違う仕事に当初は戸惑いました。労働組合専従になったのはたまたまなのですが、今振り返ると、これが自分のキャリアにとって一番大きなターニングポイントになりました」
労働組合では経営対策局長として労使協議の事務局の役割を担った。そこで鋳造技術の現場との違いを実感したという。
「それまでの鋳造技術では、『物理現象』が相手でした。物理現象に勝てばいいという、ある意味わかりやすい世界。しかし、労働組合では『人の心』が相手です。いまでも覚えているのは、あるとき労働組合が組合員のためにつくった提案に、一部の組合員から思いもよらない強い反対意見が出たことです。物理現象が相手なら、その提案は正解以外の何ものでもない。だから、なぜ反対意見が出るのか初めは理解できませんでした。しかし、よく考えると人にはそれぞれの立場やバックグラウンドがあるので、100人いれば100通りの意見があるのは当然です。それに気づくことができたのは大きかったですね」
「人の心」と向き合う難しさや奥深さを学んだ藁科氏は、反対意見の人への接し方を変えていった。「なぜ反対なのですか?」と反対の理由を相手に素直に聞き、情報を引き出すようにしたのだ。お互いが思っていることを言語化することで、共通認識がもてるようになり、徐々に反対意見の人との交渉もうまくいくようになっていったという。