第9回 弁護士・海老澤 美幸さん 切り開いた「クリエイティブを守る」道 海老澤 美幸氏 ファッション業界専門 弁護士|寺田佳子氏 インストラクショナルデザイナー
人は学べる。いくつになっても、どんな職業でも。
学びによって成長を遂げる人々の軌跡と奇跡を探ります。
ファッション業界専門の弁護士として活躍する海老澤美幸さんは、自らスタイリングも手掛けるフリーのファッション・エディターでもあります。
その異色の経歴と、「ファッション業界を法律でどう守り、育てるか」について、所属する法律事務所のオフィスで伺いました。
01 司法試験なんて全然ムリ!
いま、ファッション業界が大きく変化している。限られたデザイナーやモデルたちだけで創る世界から、SNSの浸透によって「一億総ファッショニスタ」の時代になったからだ。服や小物を自分流にコーディネートした写真をSNSに上げてフォロワーの支持を集める、いわゆる「インフルエンサー」とよばれる人のなかには、権利関係の知識がないために、知らぬ間に他人の権利を侵害していたり、逆に自らの権利を守れずに利用されてしまうケースもある。
これからのインフルエンサーには法律のリテラシーが必要だと考え、若手インフルエンサー育成プログラムで著作・肖像権の基礎知識を教えるファッション・ローの専門家が今回のお相手、海老澤美幸さんである。
「おしゃれの現場に弁護士を!」という海老澤さんの“おしゃれの思い出”は、父の転勤先だった青森県の三沢で過ごした子どものころにさかのぼる。
「米軍基地の街でしたから、外国人と接するのは日常でしたね。そんな雰囲気の影響なのか、母親の洋服を着て、鏡の前でポーズをとったりするおませな子だったみたいです」
10歳で東京に来ると、中学時代には少女向けのファッション雑誌に夢中になり、女子高では、「演劇祭の衣装係になってドレスを縫ったり、ハロウィンでおしゃれに仮装するのが楽しくて」。
しかし、大学進学で選んだのは、意外なことに法学部。将来、自立するなら法律か経済がいいのではと考えた末の選択だった。
では、法曹界へ進もうと?
「周りには司法試験を目指す人がたくさんいたので、私もかじってはみたのですが、『難しすぎて全然ムリッ!』って、早々にあきらめました(笑)」
というわけで、ダンスサークルとセレクトショップのアルバイトに明け暮れ、ふと気がついたら3年生。友人たちはすでに内定をもらっていて、民間企業の就活は“時すでに遅し”だった。
普通ならここで「ガ~ン!」と途方に暮れるところだが、海老澤さんはこう考えた。
「あっ、そうか! だったら、公務員なら間に合うのかな?」
目の前に立ちはだかる課題を、「新たな世界に一歩を踏み出すチャンス」ととえられる、この「レジリエンス(回復力・柔軟性・弾力性)」が、どうやら海老澤さんの強みらしい。
そのうえ、
「どうせ挑戦するなら、コクイチ(国家公務員一種)がいいな」
と、屈託なく最高の高みを目指すのだから、最強のレジリエンスである。