人材教育最前線 プロフェッショナル編 「自分を超える後輩」づくりで黙っていても人が育つ組織へ
「埼玉に新たな価値を創造する“地域No.1銀行”」をめざす武蔵野銀行。その実現の要となる「優れたプロ行員」の育成を担うのが、人事部人材育成グループグループ長の高倉啓氏だ。「黙っていても人が成長し、育っていく組織をつくる」。そんなビジョンを掲げる同氏が、今、最も丁寧に取り組んでいるのが、上司・部下、先輩・後輩間のコミュニケーションの醸成と、若手が若手を育てる仕組みの構築である。一人ひとりが自らの能力を次の世代に伝えていくことを当たり前にする――。その風土づくりには高倉氏自身の経験が活きている。
去年を超える仕事をする
1年下の後輩たちが1年後、前年の先輩たちを超えていなければ企業は成長していかない──。高倉啓氏の持論である。
「例えば、去年と同じ内容を伝える通達文書であっても、ちょっとした“てにをは”を変えることで、よりその内容をうまく伝えるための工夫ができますよね。そうして工夫や改善をし、去年の文書に負けないものを作成するよう、部下にも言っています」
高倉氏はただ単に他人のまねをすることが好きではないという。まずはまねから入るのは大事であり、まねをすることによって次のステップへとつながればよいが、まねするだけでは単なる作業で終わってしまう。オリジナルは超えられず、それ以上には到達できない。これはどんな仕事にも共通するポイントだろう。
そんな成長意欲を持った高倉氏が地元埼玉の武蔵野銀行に入行したのは1988年。学生の頃から「早く働きたい」という気持ちが強くあった。
「中学時代はサッカー部、高校時代はラグビー部に入っていましたが、最初はルールも何もわかりませんでした。文字通りゼロからスタートし、練習を重ね、先輩のスキルを盗みながら追いつき追い越す中で、面白さや醍醐味を感じるようになりました。
さらに、スポーツから多くの学びや気づきを得ました。仲間を理解し、協力し合うこと。試合中はどうすれば勝てるかを瞬時に考え、判断すること。失敗したらどのように修正するか、もう一度考えることなどです。
同時に、誰かに指示されて動くのではなく、自分で考え、行動したいと思っていました」
早く社会のフィールドに出て、自分でどこまでできるか挑戦したかったのだ。
入行後、営業店に配属された後も、部活動での経験から、後輩の面倒を見るのが好きだった。だが、追いつき追い越せという気持ちで頑張ってきた自身とは対照的に、後輩からはあまり積極性が伝わってこなかった。
「若い人たちの能力が去年の先輩を下回るようになれば、企業は成長するどころか、現在の力すらも維持できなくなってしまう。臨店(本部の担当者などが営業、事務などの指導をするために支店を回ること)で当時の人事部の人事役が営業店を訪れた際、そんな話をしたところ、数カ月後、私は人事部にいました(笑)」
ともすれば、若い人は自ら考えず、性急に答えだけを求める傾向がある。しかし、実社会では答えが得られないことが多く、何がベストなのかわからない。
「だからこそ、一人ひとりが創意工夫をして、“MoreBetter”を追求していくことが大切なのです」
上が下を育てる仕組みづくり
そうして1996年、人事部に異動した。担当は人事制度や労務規定などの業務だったが、一方で教育にも関心があった。