第7回 “多様性を活かす”とは 育児や介護も含めた 経験からの学びを活かすこと 中田 るみ子氏 三菱ケミカル 常務執行役員 人事部所管
総合化学メーカー、三菱ケミカルの人事全般を統括するのは、子育てと仕事を両立しながら人事のキャリアを歩み続けてきた中田るみ子氏である。強く湧き出る人事の仕事への想いと、今後の方向性について聞いた。
原点は「早く歳をとりたい」
まず、現場へ――。三菱ケミカルの中田るみ子氏は、2018年3月、同社にダイバーシティ推進担当執行役員として招聘されたが、その席を温める暇もなく、入社直後から全国を飛び回った。各地に広がる支社や工場、研究所などすべての事業所を訪ね、現場と直接対話し、その本音を聴くためだ。各拠点のトップから一般社員まで、中田氏自ら面談した人数は700人に及ぶ。
「当社は17年4月に三菱系の化学メーカー3社、三菱化学・三菱樹脂・三菱レイヨンが統合して生まれました。多種多様な事業部門を擁する非常に大きな組織ですから、700人といっても、全体からするとほんの一部に過ぎません。そこは踏まえつつ、ほんの一部でもいいから理解したい。人事一筋で、現場と一緒に泣いたり笑ったりしながら、組織を強くするお手伝いをしてきた叩きあげの身としては、社員の声が直接聞こえないと不安なんですよ」
そう言って微笑む中田氏の柔和な表情に、「叩きあげ」という形容は不似合いにも思えた。しかし、その豊かなキャリアストーリーをたどると、日々現場で貪欲に学び続けてきたたくましさ、芯の強さが見えてくる。
もともと人事の仕事に強い関心があり、大学では組織心理学を専攻。新卒で大手石油会社に就職し、希望通り、人事部研修課に配属された。課長と2人だけの職場だったため、何でも自分で学んで進めるしかなかったが、意見や提案などは通りやすかった。当時としては先進的だった一般職の社員に対する研修を提案、実施したこともあるという。
「そのころはもう無我夢中。とにかく『早く歳をとりたい』とばかり考えていた」と中田氏は振り返る。
研修の受講者には年上の従業員ばかりで、若い自分が語るだけでは心に響かない。人が本当に納得してくれるのは、自分の経験の裏打ちがあってこそと痛感したのだ。
「年齢を重ねて、経験の引き出しが増えれば、もっと自信をもって人と話せるのに、と。あのもどかしさが私の原点かもしれません」