川合正矩 一人ひとりの社員に 会社への主体意識を養うことが 教育の役割
激化する国内競争、グローバル化――急変する経営環境に対応した人材育成は、
多くの企業にとって喫緊の課題だ。
かつて教育担当を務めた経験もある日本通運 川合正矩代表取締役社長は、
「管理職の存在こそ人づくりの要」と語る。
「優秀な管理職は発掘するのではなく、自らつくるもの」――
最新の研修施設を開設し、きめ細かなフォロー体制で次世代リーダーを育てる、
同社の人材教育の骨太な方針と決意を語る。
勝ち抜く人材が持つ2つの能力
――グローバル人材の育成も急務ですが、一方、国内人材の開発も手が抜けません。競争が激化する市場環境を踏まえ、どんな育成戦略をお持ちでしょうか。
川合
国内で働く人材の育成は、今後いよいよ重要になってきます。というのも、国内市場は今後シェアの取り合いになる。当社の場合は、限られた物流量をどこまで獲得するか、ということですが、そこでものをいうのが“提案力”を持つ人材です。
自分の専門分野でしか勝負できないと、価格競争に陥りがちになる。それを避けるには、サプライチェーンを広く見渡し、複合的な提案をすることでお客様のソリューションに結びつけることが必要です。そのためには物流に関する幅広く深い知識が不可欠となります。人脈も広げてほしい。必要に応じて助言してくれるプロフェッショナルを大勢味方につけることです。
“人間力”も欠かせません。お客様がどこから資材を確保され、どこに納入しておられるか。その流れをつかまないと適切な提案はできない。重要な情報ですので教えていただくのは至難の業ですが、相手の懐に入り込める人間性がそれを可能にします。
当社はサービス業ということもあり、最終的にはやはり、この人間力が大切になってくるのですね。そうした力を磨くためには丁寧で、かつ継続的な育成が必要です。
人づくりの重要性を教育担当時代に痛感
――そうなると、指導役の上司の役割がやはり重要ですね。ご自身の体験を振り返ってみていかがですか。
川合
私は1966年に入社したのですが、4年目に配属された仙台支店時代に、特に集中して物流の基本を学んだような気がします。
何しろどんどん営業現場に出されるものですから、あらゆる実務の知識が必要になる。お客様のニーズは陸、海、空とそれこそ多岐にわたっているので、それに応えようと必死で勉強しました。今、振り返っても忙しい時代でしたね。しかしそのおかげで「物流のことなら大抵わかる」という自信がつきました。
資格の勉強もしました。ちょうど通関業法が制定され、それに伴い通関士制度が導入されたばかりでね。ライバル会社の担当者が通関士の国家資格を取ったと聞き、私も負けじと取得したりしましたよ。それが営業のシーンでは有利に働きましたね。
学びの環境を与えてくれたという意味で、この時の上司はとても印象深い方です。「東北経済についてのレポートを書いてみなさい」などと折に触れて課題を出してくれたりしました。
こうした上司や先輩の指導のおかげで、言葉遣いも自然に身につきました。後に人事部門に配属になった際、入社希望の学生と電話で会話をしていたら上司から「相手が若い学生さんでも、君はちゃんと丁寧な言葉遣いで話すんだね。これまで相当苦労して(育てられて)きたんだな」と感心された記憶があります。
――主任時代に本社の人事部門で教育担当として、直接人づくりの仕事に関わっておられます。
川合
教育分野への道を開いてくれたのも仙台支店時代の上司でした。自分はまだ人に教わる立場だから、と一度はお断りしたのですが、当時仙台支店におられた前々任社長の濱中が「人づくりは面白いぞ。とにかくやってみろ」と声をかけてくれましてね。それで本社人事課で、当時あった中央業務研究所での研修企画を担当するようになりました。各部の部長や次長課長と連携し、企画内容を充実したものにさせていくのですが、現場の声も反映させていく仕事は非常に手応えがあり、面白いものでした。
発見もいろいろとありました。たとえば、同じ内容を教えるにしても、誰が教えるかで受講者の反応が全く異なる。普段から尊敬されている人は、講習の場でもやはり聴き手の信頼が厚いんです。人間観察の良い場になりました。
優秀な管理職は育てるから生まれる
――上司の力次第で、若手の学ぶ力や進む道は大きく変わってくるのですね。やはりOJTは教育の根本ということでしょうか。