リーダーは人を育てることに 喜びを感じる 堀切功章氏 キッコーマン 代表取締役社長 CEO
1950年代という早期からグローバルに事業を発展させてきたキッコーマン。
江戸時代から続く創業家のうちの1つ、堀切家出身のリーダーとして同社を率いるのが堀切功章氏である。
2018年には「グローバルビジョン2030」を打ち出し、伝統を守りつつもさらなる飛躍を目指す。
同社の発展には、現場の一人ひとりの声、そしてその成長を大切にするリーダーの考えや想いがあった。
「伝統」は「革新」の連続から生まれる
─現在、御社が取り組んでいる経営課題を教えてください。
堀切功章氏(以下、敬称略)
2018年4月に、2030年をターゲットにした新長期ビジョン「グローバルビジョン2030」を発表いたしました。そこで掲げたのは「グローバルNo.1」「エリアNo.1」「新たな事業の創出」という3つの戦略です。現在、私たちの売上の6割、利益の7割は海外事業です。海外においては、しょうゆを中心とした食品製造販売の成長を継続させること。国内では、生産性を高めて収益性をさらに向上させることを重点課題としています。
─「グローバルNo.1」を実現するうえで必要な人材とは。
堀切
言語は大事ですが、それ以上に重要なのは仕事ができる人であることです。仕事の能力が高い人は異文化ヘの適応性も高い傾向にありますし、遅かれ早かれ言葉も覚えていきます。語学力か仕事の能力かの二者択一ではありませんが、もし片方しかない人を海外に赴任させるとしたら、白羽の矢を立てるのは仕事の能力が高い人です。
最近は海外で活躍したいという思いをもって我が社に入社してくれる人が増えてきました。その思いは評価しています。ただ、いきなり海外に出すことはしません。仕事の能力を重視して選んでいるので、まずは国内で経験を積むことが必要です。企業文化を理解して力をつけた後で、海外勤務にトライしてもらいます。
─御社は1957年からアメリカに進出しています。社員を海外に送り出すときに意識していることは。
堀切
「郷に入れば郷に従え」でしょうか。たとえば、1973年にウィスコンシン州で初の海外工場を稼働させたとき、しょうゆづくりのノウハウを伝えるために、日本から数十人の社員を赴任させました。当時はまだ海外旅行も身近ではない時代で、中学英語もおぼつかない社員がほとんど。普通なら心細くて、1カ所に固まって暮らしたくなるでしょう。特にウィスコンシン州ウォルワースは中西部の農村地帯で、当時はまだ日本人は身近にいませんでした。
しかし、そうした場で固まってコミュニティーをつくると反発を招きかねないので、あえてばらばらのところに住んで、地域の人たちとの接点をもつようにした。すると、逆に地域住民の方々に受け入れられ、非常に親切にしてくれたそうです。
海外で事業を軌道に乗せるためには、「経営の現地化」が必要です。その後、オランダやシンガポールなどにも工場をつくりましたが、考え方はウィスコンシンと同じ。社員は、壁をつくるのではなく地域に溶け込むことを意識していたはずです。
もう1つつけ加えるなら、「自律型」であることが重要です。何か判断すべきことがあるときに、いちいち本社にお伺いを立てていたら海外のスピードについていけません。もっとも、海外に出せばみんな自然に即断即決するようになるので、この点についてはあまり心配していません。