CASE.3 日本アイ・ビー・エム ボランティア活動でリーダー育成 世界中のスペシャリストが新興国に集い、社会問題を解決
グローバルリーダーはビジネス以外の現場でも育成されている。IBMは新興国や発展途上国での社会貢献活動に、世界から募った社員チームを現地に派遣。難易度の高い社会問題に、インターナショナルチームで取り組むことで、より高度なグローバル・リーダーシップの育成を行っている。
●背景 グローバル・コラボレーション
真のグローバル化が進む現在において、そこで活躍する人材が本当に持っておくべきスキルとは何か。その答えのヒントになりそうなのが、IBMが行う社会貢献活動による人材育成、「コーポレート・サービス・コー(以下、CSC)プログラム」だ。
これは、世界中から集まったIBM社員が各自のスキルを生かし、新興国や発展途上国における社会的な課題に取り組むプログラム。このような活動が始まった理由を、日本IBMで社会貢献のプログラム・マネージャーを務める藤井恵子氏は、次のように語る。「IBMは米国を中心に、170以上の国や地域で事業を展開しています。従来はリーダー育成もそれぞれの国や地域単位で行われていましたが、それでは世界の情勢にそぐわなくなってきた。そこでIBMではこれからめざすべき企業像として、事業や地域を横断して経営資源を統合・最適化させる『真に統合されたグローバル企業(GIE:Globally Integrated Enterprise)』を定義し、世界統一のリーダー育成をスタートさせました」
その施策の1つとして2007年、当時の米国IBM会長だったサミュエル・パルミサーノ氏が発表したのがCSCだ。その発想の原点は米国、ケネディ大統領時代まで遡る。ベトナム戦争当時、国内で平和運動が始まり、それが拡大し、青年海外協力隊のようなボランティアが生まれた。社会貢献活動が文化として根づいている米国ならではともいえる。CSCは、その企業版だ。「CSCはビジネスではなく、あくまでもボランティア。社員は勤務時間外に研修や会議を行い、現地派遣もボランティア休暇制度を利用します。社会貢献という活動を通じて、世界中のIBM社員が一つになる。そこに意義があります」
もちろん、この研修と別にトップ層のグローバル教育や研修も行われている。では、なぜこのような活動を始めたのか。そこには、人材およびビジネスの多様化が関係している。
「従来から一般的なグローバル研修は行っていましたが、GIEを実現するには、もっとスピーディに育成し、研修もより深化させる必要がありました。そこで、新興国に出向き、初めて出会う多様なメンバーと共に働き、リーダーシップを発揮できる訓練を企画したのです」
図表1は2010年に発表されたIBMの求める新たな人材像だ。そこには9つのコンピテンシーがある。世界レベルでの協力体制を求める「グローバル・コラボレーション」や、新たな顧客をイメージした「専門能力を駆使した影響力」「相手にインパクトを与えるコミュニケーション」といった項目も見える。CSCでは、まさにこれらの全てが鍛えられるといっても過言ではないだろう。
●具体的な取り組み 異なるスキルでチーム編成
CSCは2008 年の活動開始以来、全世界50カ国以上、約2,000人のIBM社員が派遣されている。これまでの派遣国はアジア、欧州、アフリカなどの新興国、発展途上国で30カ国。日本IBMではこれまで69 名の社員が20カ国に派遣されている(2012年12月末現在)。
それでは具体的に、どのような流れでCSCが実施されるかを見ていこう(図表2)。