第5回 根幹にあるのは“やってみなはれ精神” 自律・想像力と当事者意識が組織を動かす 有竹一智氏 サントリーホールディングス 取締役専務執行役員 ヒューマンリソース本部長
酒類・食品のグローバルカンパニーであるサントリー。
人事トップを務める有竹一智氏は、しなやかな感性と細やかな気遣い、そしてポジティブマインドで様々な局面を乗り越えてきた。
ルーツにあるのは“当事者意識”だと語る有竹氏に、人事に対する思いを聞いた。
答えのない壁に当たる留学時代
やってみなはれ。やらなわからしまへんで――。サントリー創業者、鳥井信治郎氏の口癖だったとされるこの言葉は、いまも多くのビジネスパーソンを奮い立たせる。そしてサントリーホールディングス取締役専務執行役員でヒューマンリソース本部長の有竹一智氏も、まさに“やってみなはれ”を実践し続けてきた一人だ。
「サントリーならお酒が飲める!」そんな動機から入社して最初に配属された総務部時代、突然命じられたニューヨークのロースクールへの留学も、この精神で乗りきった。
「海外に行ったこともありませんし、英語は大の苦手でした。社内にも前例がなく、手探り状態だったので、自分で動かないと何も始まりませんでしたね。語学についても、糧にできるかどうかは自分次第だと気づき、猛特訓しました」
現地で1年英会話を勉強し、ニューヨーク大学(ロースクール)に入学。大学でもディスカッション中心の授業についていくため、必死に判例を読み込み猛勉強を続けた。そんななかで体感したのが「当事者意識」をもつことの大切さだ。
「ビジネス法務は正解のない世界です。原告側に立つか被告側に立つかで、導く解が変わるのですから。後はその解の正当性を、事実や過去の判例に照らし合わせて論じていく。だから教科書を見たって、どこにも答えが書かれていないんです」
訴訟に勝つには自陣の立場を踏まえなければ、無意味な議論になる。他人事では、大学の授業ですら太刀打ちできないことを思い知った。
当事者意識は、いまも有竹氏が仕事に臨むうえで常に重視しているマインドセットだ。
「人事にとっても大切なことです。社員や経営にいかに貢献するか。そのためには相手の懐に入り込み、自分のことのように考え抜くことが大切で、そうすることで素晴らしい解が導かれると信じています」
経営の“戦略パートナー”に。事業の“ビジネスパートナー”に。そして従業員の“サポーター”に――。部内では部下たちと「人事のありたい姿」を共有しあっているという。