人材教育最前線 プロフェッショナル編 採用も育成も障がい者支援も、「働く」を「喜び」にするキャリア開発
ソフトウエアの開発をベースにシステム開発・設計・運用など、広くIT分野を事業とする富士通ビー・エス・シー。その中で、採用・人材育成から組織活性化、ダイバーシティ推進まで幅広い役割を担うのが、人事グループ人材開発部 担当課長の田中優子氏だ。「働くことから喜びが得られる職場、会社、社会をつくりたい――」。2級キャリア・コンサルティング技能士の国家資格を持ち、同社のキャリア教育をゼロからつくり上げた田中氏がめざすのは、人と組織が持つ可能性にこだわった、成長のきっかけづくりである。
採用も教育もキャリア支援
田中優子氏が富士通ビー・エス・シーに入社したのは2007年。それ以前は、NPO法人で障がい者の研修・就労といった雇用支援や、障がい者と企業とをつなぐ相談業務、人材紹介などを仕事としていた。そんな中、キャリアカウンセラーとしてのスキルアップ勉強会で、富士通ビー・エス・シーの社員と偶然ペアを組んだ。同社は当時、障がい者雇用で苦戦しており、勉強会をきっかけに担当者から相談を受けるようになった。
障がい者の採用から入社後のフォローまで、さまざまな課題を抱えていた富士通ビー・エス・シーは、障がいがある人もない人も共に生きやすい社会づくりをテーマとしていた田中氏に、社員として解決に臨むことを希望した。
だが、入社を決めた直後、田中氏は2人目の子どもを妊娠。そこで在宅勤務でスタートすることになったが、それは同社としてもチャレンジングな選択だった。初のケースとして当初は社員も田中氏自身も戸惑うことが多かったという。しかし、これが田中氏にとって意味のある経験となった。
「今でこそ画面共有や遠隔での会議が可能となりましたが、当時はお互いの顔が見えない状況で、仕事の進め方を改めて考えるようになりました。何より在宅勤務者の気持ちに気づけるようになったことが大きかったですね。私が入社して数カ月後に障がいのある方を2名、在宅勤務で採用しましたが、当初は頻繁に自宅訪問し仕事や生活リズムについて指導しました。その際に改めて、業務上のフォローだけでなく、仕事の渡し方や日々の言葉の遣い方への工夫が成果に影響すると感じました」
在宅勤務者にとって重要なスキルの1つにタイムマネジメントがあるという。在宅での勤務は仕事にのめり込んでしまいがちなため、仕事とプライベートタイムとの切り分け方へのアドバイスは、自身の経験が活きた。
その後、障がい者支援業務に加え、新卒採用も担当し、さらに2010 年10月にキャリア推進チームを発足、並行してキャリア支援も担うようになった。
「その頃、社員の皆さんは、『キャリア』という言葉の意味を曖昧に捉えている状態でした。そこでまず、我が社で言う“キャリア”とは何なのかをきちんと示すことが重要であると考え、『仕事の視点から見た人生、諸経験の積み重ねと学びの成長のプロセス』と定義しました。つまり、人生を仕事から見た時の、いわゆる外的なキャリアではなく内的なキャリアを意味します。経験が何より重要で、キャリアとは学び続ける中で形成されていくものであると、研修の中で繰り返し社員に伝え、認知をさせていきました」
こうして携わってきた障がい者支援、新卒採用、そしてキャリア支援。一見関連のない業務にも見えるが、仕事をするうえで違和感はないという。なぜなら、「社員の入社前から退職するまでの全てがキャリア支援」だと田中氏は捉えているからだ。むしろ採用と教育が分かれていることのほうが不自然であり、分かれているのは業務上の都合であって、「人」という視点で見れば採用も教育も同じ流れの中にある。
「ですから、採用も教育もキャリア相談も一貫して担当させてもらえるのはありがたいと思っています。さらに、私にとっては障がい者支援もキャリア支援の一環なのです。偶然持っている障がいに対し、どうやってそれを受け止め、そしてどう自分の生き方に取り込んでいくか──。障がいがあることによって困ることが多い場合には会社側がある程度環境を整えます。でも、自分が成長していくために動かなければいけないのは、あなた自身です──そういう姿勢で接するようにしています」