私の戦略人事論 求められるのは10年20年先を見据えた ビジネスと学びのシフト 深澤祐二氏 東日本旅客鉄道株式会社 代表取締役社長
本州の東半分の鉄道事業で安全安心を支えながら、駅ナカやSuicaといった新事業も展開してきたJR 東日本。
国鉄民営化から31年を迎え、今後の環境変化に備え経営体制を変更、4月より深澤祐二氏が社長になった。深澤氏は人事部門で長年の経験を持つ。
そこで、どのように今後、ビジネスと学びを転換させていこうとしているのか、「戦略人事論」を聞いた。
「鉄道」から「ヒト」中心へ
─民営化から昨年で30年。今後の経営戦略を教えてください。
深澤祐二氏(以下、敬称略)
JR が発足してからの30年は、鉄道の復権と再生を大きな目標に掲げて、次の3つの事業に取り組んできました。まず根幹である「鉄道事業」、そして駅を中心とした「生活サービス事業」、さらに「IT・Suica 事業」です。おかげ様でこれら3つの事業基盤を構築でき、当初の目的は一定程度、達成できたと考えています。
では、次の30年は何を目指すのか。前提として考えなければいけないのは人口減少です。首都圏においても長いタームで考えれば人口減少は間違いなく進むため、それに合わせてビジネスモデルを変えていかざるを得ない。具体的には、これまでの「鉄道」や「駅」を中心としたビジネスモデルから、「ヒト」を中心としたビジネスモデルへの転換を図ります。
─ヒトを中心としたビジネスモデルとは、どのようなものですか。
深澤
例えば鉄道事業は、新幹線や直通運転のネットワークがほぼできあがりました。今後は鉄道の周りの二次交通も含めてトータルで考えていきます。ヒトを中心に考えれば、例えば鉄道に乗る前後の輸送もワンストップで予約できるプラットフォームがあってもいい。また、前後の交通手段として、自動運転車やシェアサイクルとの連携も考えられます。
生活サービスでは、駅づくりからまちづくりにも進出します。これまで駅を中心にオフィスやホテル、ショッピングセンターの開発をしてきましたが、今後は住宅や文化施設といったものも開発対象になります。実際、いま品川の車両基地跡地では、人が集まるまちをどうつくるのかといった観点から開発を進めています。
3つめの柱であるIT・Suica事業ですが、Suicaの発行数はいまや7000万枚に達し、一つのインフラとしてご利用いただいています。Suica には決済、認証、チケットなど様々な機能があり、それらの機能を使って他社ともオープンに連携して、さらに広がりを持たせようと考えています。
新しい事業フィールドという意味では、海外も重要です。海外では、高速鉄道、都市鉄道を含めて鉄道に対するニーズが高まっています。そうしたニーズに応える形で既にいくつかのプロジェクトを走らせていますが、今後もサステイナブルな形でさらに広げていきます。
安全分野にもチャレンジが必要
─ビジネスモデルの変化に伴い、求められる人材像も変化しますか。
深澤
私たちはインフラに対して責任を持ち、安全、安心を実現する使命を持っています。これは今後も変わりません。また、鉄道事業における信頼の基盤があってはじめて他の事業も展開ができます。ですから、どの事業分野においても信頼がベースであるという自覚は、全社員に持ってもらわなくてはいけません。