Chapter4 現場の対話を深めるために、人事ができること|OPINION 対話と内省を深めるには スキルがなくても5分の習慣で傾聴と共感のクセづけは可能 松尾 睦氏 北海道大学大学院 経済学研究科 教授
1on 1を通して一人ひとりの成長を支援するには、仕事を振り返り(リフレクション)、そこから学ぶ必要がある。
しかし、1on 1の場は進捗管理になりがちであり、振り返りや内省を促すことには困難が伴う。なぜ、1on 1は機能しづらいのだろうか。
その理由と、深い内省を起こす対話の方法、そして、現場支援のために人事ができることについて、内省や経験学習に詳しい松尾睦教授に聞いた。
1on1が機能しない理由
「内省」の難しさは、松尾睦氏の研究実践に表れている。
「OJT 指導の文脈なのですが、『育て上手の指導方法』を分析して作成したチェックリスト※があります。研修やセミナーを通して多くの方にチェックを入れていただきました。結果、『目標のストレッチ』『進捗確認と相談』『ポジティブ・フィードバック』といった他の項目と比べて『内省の促進』が低く出る傾向があることが分かりました。多くの現場で、日々の仕事を振り返って考えさせるリフレクションが促せていませんし、その重要性が十分に意識されていないといえるでしょう」(松尾氏、以下同)
上司が部下に対してリフレクションを促せない理由の1つは、日々のコミュニケーションがとれていないからだという。
「育て上手の人は、声かけが大事だと言います。声かけは、“あなたのことを気にしている”というサインだからです。そういうポジティブな声かけを行うことで関係性ができてきて、それがリフレクションの下準備となります」
組織学習の大家ドナルド・ショーンはリフレクションを「行為の中(reflection in action)」と「行為の後(reflection on action)」に行うものの2種類に分けている。前者は仕事の最中に行う、日々のコミュニケーションにあたる。後者は、まとまった仕事が終わった後に俯瞰して行うもので、1on1は後者にあたる。
「“あの仕事どう?”と声をかけると、“今○○に詰まっていますが、△△しようと思います”など気づきを促すことができます。このような声かけは“ 行為の中”のリフレクションにあたります。どんなに忙しくても、こうした“ちょっとした声かけ”ならできるのではないでしょうか」
※編集部注:チェックリストは松尾氏の書籍『職場が生きる 人が育つ「経験学習」入門』のp185に掲載されている。
“事実”と“感情”の語りが鍵
リフレクションとは何かを、もう少し具体的に知るためには、Gibbs(1988)の「リフレクティブ・サイクル」(図1)が参考になる。