CASE 1 キヤノン キーパーソンは社内コンサルタントたち メンバーの気づきと組織の “自走”を促す「CKI 活動」
キヤノンの「CKI(Canon Knowledge-intensive staff Innovation)活動」は、日本企業における組織開発の成功例の1つといわれる。
社内コンサルタントが1年間にわたって各部署に関与し、コミュニケーションの活性化や業務の見える化を支援することで、風土改革につなげている。
メンバーの内発的動機づけを促し、生産性向上を図る独自の取り組みを紹介する。
●フェーズ1・導入 トップの号令で横串を通す
キヤノンの組織開発の取り組み、CKI活動の歴史は古い。活動のオリジナルである手法「技術KI」を導入したのは、1999 年のことだ(図1)。以来、内容を進化させながら取り組みを続け、全社を挙げた改革につなげてきた。
そもそものきっかけとなったのは、1998 年に発足した「経営革新委員会」である。多くの大企業のように当時の同社もまた、事業部の“縦”の関係が強く、業務やコストでムダが生じる面があった。この問題にいち早く着目し、改革に着手したのが当時の社長の御手洗冨士夫氏(現代表取締役会長CEO)である。横串を通すため、自ら委員長となり、同委員会を発足。「成果と効率は2倍に! 時間とロスは半分に!」を目標に、専門委員会を設けて活動を開始した。
その1つ、開発システム革新専門委員会の開発風土分科会では、「技術KI®」の導入推進に取り組んだ(図2)。
技術K(I 以下、KI)とは、90年代に日本能率協会コンサルティングが開発した、知的生産性向上と組織風土活性化の手法だ。もともとはホワイトカラーの生産性を高める目的で研究していたが、製品の開発・設計を担う技術部門の生産性向上にフォーカスして仕組み化した。
この手法の最大の特徴は、単なる研修や体験を提供するのではなく、日常業務をダイレクトに変えることだ。特定の研修の参加者ではなく、組織全体の知的生産性向上をめざす。「職場内に見えない壁があり、組織力を発揮できない」、「仕事がうまく進まず、効率が悪い」、「指示命令型でやる気が出ない」といった状態を解消。チームの知恵を集めて力を合わせる仕事のやり方に変革することで、業務のムリ・ムダ・ムラを排除する。一人ひとりが能力を最大限に発揮できる、生き生きとした職場を実現することが最終目標だ。
「当時、社内では役割の細分化が進み、大げさに言えば隣が何をしているかも分からない状態でした」と市川泉上席は語る。部門長の方針、上司の指示、他部署の依頼が混在し、目標が分からなくなるなど混乱も生じていた。「いわば、“神様がいっぱいいる状況”だった」という。
「そこで、プロジェクトチームごとにKI による改革を進めることにしたのです。“個人商店”ではなく“チームの団体戦”にしていこう、プロジェクトの開始時にみんなのゴールを明確にしよう、希薄化したコミュニケーションを改善しようと目標を掲げました」
具体的には、メンバーが本音で語り合う「ワイガヤミーティング」を定期的に行い、模造紙や付箋紙を使って課題を洗い出し、具体的な改善計画をつくるなど、個々の役割を明確化する「合意と納得のマネジメント」を進めた。チームにはびこる“悪魔のサイクル”を断ち切ろうという試みだ(図2)。コミュニケーションを活性化させ、各人の問題意識を見える化して共有する点がポイントである。