次世代リーダーは個の声を聞き、力を引き出す “ファシリテーター”であれ 島村琢哉氏 AGC 代表取締役 社長執行役員CEO
独自の素材、ソリューションを武器に、
長期経営戦略「2025年のありたい姿」の実現に向けて走り出したAGC。
経営環境、市場が急激に変化を遂げるなか、
あらたに求められる力―自主性や協創力―を伸ばすには、
どんなリーダーシップが必要とされるのか。
社長就任から5年目を迎える島村琢哉氏にインタビューした。
“ありたい姿”を実現するタフネスさ、アンテナ力
─2018年7月に旭硝子からAGCに社名変更し、グループ一体経営の総仕上げを宣言されました。あらためて今後の経営戦略について教えてください。
島村琢哉氏(以下、敬称略)
私が社長に就任したのが2015年です。そこから10年先をにらんだときに、我々は何をしていくべきか、どのようなグループになりたいのかということを考え、翌年に「2025年のありたい姿」を発表しました。具体的には、ガラス、化学品、ディスプレイ、セラミックスといった「コア事業」を確固たる収益基盤とし、モビリティ、エレクトロニクス、ライフサイエンスをターゲット領域とした「戦略事業」を成長エンジンとしていっそうの収益拡大を目指しています。
現在、2018年から2020年の中期経営計画の実行中ですが、今回の中計は「2025年のありたい姿」に到達するための中間点という位置づけ。通常、投資額は償却費の範囲内で収めますが、この3年間はさらなる成長への仕込みの期間とし、それをオーバーする額を投資していきます。
─新事業を成長させるには、どのような人財が必要ですか。
島村
壁にぶち当たっても忍耐強く乗り越えていくタフネスさが求められます。素材の開発は消費財と違い、長期にわたるからです。
たとえば当社では2018年、EUVマスクブランクスの供給体制を強化しました。技術革新時代の隠れた主役ともいうべき半導体チップを進化させるには、半導体回路パターンの微細化が不可欠なのですが、その微細化技術を支えるのがEUV マスクブランクスです。
ただし、要求水準は高く、東京ドームでたとえると、許容される欠陥はスギ花粉数個以下しか許容されないほど。開発は困難を極め、2003年の研究スタート以来、長い歳月を要しました。単に専門性が高いだけのメンバーではとても乗り切れなかったでしょう。
また、これからはオープンイノベーションの機会が増えます。2018年11月、NTTドコモさんと共同開発したガラスアンテナなどはその好例でしょう。ビルなどの窓ガラスに貼りつければ、窓を基地局にできるというもので、データ量が増大する「通信5G時代」を見据えた世界初の試みです。
自分たちの領域に閉じこもって考えていても、新しい発想は生まれません。社員にはアンテナを高く張り、外の世界でネットワークを広げてほしいですね。我が社はもともとまじめで一直線な社員が多く、外部の方と積極的に仲良くするタイプは少なかった。そこはマインドセットを変えていかなくてはいけないでしょう。