OPINION1 エンゲージメント調査からわかること マネジャーは部下の有無別に 専門的なトレーニングや再定義が必要 岡田恵子氏 ウイリス・タワーズワトソン 取締役 Talent & Rewards 統括
ウイリス・タワーズワトソン取締役の岡田恵子氏は、マネジャーのエンゲージメント低下には、日本企業特有のしくみと慣例が大きく関係していると話す。現状の課題と有効な打開策について聞いた。
トップとミドルでエンゲージメント差が拡大
エンゲージメントとは、従業員が企業の目標達成と成長に向け、自分の力を発揮することで、自らも成長しようとする自発的な貢献意欲を指す。
マネジャーのエンゲージメントの実態を浮き彫りにするのは、国内外の人事コンサルティングや各種サーベイ・リサーチを行う、ウイリス・タワーズワトソンの調査(エンゲージメント調査)だ。多くの日本企業の従業員意識調査に携わった取締役の岡田恵子氏は、「マネジャーについて課題を抱えていない会社はない」と指摘する。
「ただし、マネジャーのエンゲージメントといっても、ひとくくりにはできない」とも。同じ企業でも職種により仕事の性質や自律性が異なるので、エンゲージメントのスコアは違ってくる。また役員や部長職など上位のポジションのほうが、一般社員よりもエンゲージメントが高くなる傾向にある。
岡田氏らが注目するのは、属性グループ間でのスコア差である。1つの企業内で、たとえば役職という属性を見たとき、同じ項目の各役職グループのスコアが最大と最低で30ポイント以上の開きがある場合は、非常に大きなスコア差=意識差ととらえ、注意が必要と見る。
国内企業の場合、マネジャーのスコアには2つの特徴があるという。1つめの特徴は、管理職以上の層におけるポジション間のスコア差が、かつてよりも拡大傾向にあることだ。たとえば役員と部長など、ポジションが2段階以上違うと、スコアに決定的な溝が生まれている企業が非常に多い。つまり、ミドルマネジメント層のエンゲージメントは、管理職といえども高くない場合も多い、ということだ。
「会社をリードしていく立場として本来は管理職同士、一枚岩であるべきですが、管理職の階層間で意識に大きな違いが生まれています」(岡田氏、以下同)
2つめの特徴は、同じ職階でも部下の有無がスコアに大きく影響している企業が多いことである。
部下なし管理職の間に起きている問題
マネジャーのエンゲージメントは部下あり、部下なしでどう違うのか。
「ラインマネジャーと呼ばれる部下を持つ管理職、すなわち部下の能力を引き出し、目標の達成に向けて組織を動かす方々のスコアは、比較的高い水準を保っています。
問題は部下を持たないノンラインマネジャーです。管理職であるため非組合員で、残業手当の対象ともならない人たちのエンゲージメントは深刻な状況です。一般社員よりスコアが低い場合も珍しくありません」
岡田氏は、「キャリアにおいて、“部下を持って一人前”という、昔ながらの価値観がいまだに社会に根づいているためでは」と指摘する。
「経済が右肩上がりのころは、それでよかったんです。組織の拡大にともないポジションも増え、昇進のチャンスは多かった。でも、今はそうではない。ましてやM&Aや中途採用で外部の人材がどんどん流入してくる時代です。生え抜き社員でラインマネジャーになれるのは、一握りといっても過言ではありません」